中村稔(読み)なかむらみのる

日本大百科全書(ニッポニカ) 「中村稔」の意味・わかりやすい解説

中村稔
なかむらみのる
(1927― )

詩人評論家、弁護士。埼玉県大宮市(現、さいたま市)生まれ。東京大学法学部卒業。旧制一高時代、原口統三(とうぞう)(1927―1946)、橋本一明(いちめい)(1927―1969)らを知る。いいだ・もも(1926―2011)らの『世代』に参加。1950年(昭和25)第一詩集『無言歌』で、静謐(せいひつ)で格調の高い叙情性をソネット(十四行詩)形式で展開、端正な趣(おもむき)のある心象風景を造形した。以後、『鵜原抄(うばらしょう)』(1966。高村光太郎賞)、『羽虫の飛ぶ風景』(1976。読売文学賞)など今日に至るまでほとんど詩型は変わらない。ほかに、詩画集『樹』(1954)、『空の岸辺』(1980)、『浮泛漂蕩(ふはんひょうとう)』(1991。歴程賞)、急逝した妻をしのぶ10年ぶりの新詩集『新輯(しんしゅう)・幻花抄』(2002)など、いずれも珠玉詩編が収録されている。宮沢賢治や中原中也(ちゅうや)などに関して、従来の近代詩人研究の水準を一新する評論も手がけた。『宮沢賢治』(1955)は、それまでの賢治研究が聖人化伝説に傾きがちな評伝であったのに対して、作品自体と向き合う姿勢を示しえた画期的な論考(のち増補改訂)で、谷川徹三との有名な「雨ニモマケズ論争」に発展した。その後『宮沢賢治研究資料集成』全21巻・別巻2(1990~2002)の編纂(へんさん)にも加わり、1994年には『宮沢賢治ふたたび』を刊行した。中也に関しては、『言葉なき歌――中原中也論』(1973)、『中也を読む――詩と鑑賞』(2001)などの規範的な名著を刊行。大岡昇平、吉田煕生(ひろお)(1930―2000)らと『中原中也全集』(全5巻・別巻1、1967~1971)、30年ぶりの全面改訂版『新編中原中也全集』(2000~2003)の編纂も務め、中原中也記念館(山口市)設立に与(あずか)るなど、中也研究に多大な貢献をなしている。他の評論やエッセイでは、『斎藤茂吉私論』(1983)、『束の間(つかのま)の幻影――銅版画家駒井哲郎の生涯』(1991。読売文学賞)、『日の匂い』(1995)、『子規と啄木』(1998)、『人間に関する断章』(2002)などがある。1987年『中村稔詩集――1944―1986』が芸術選奨文部大臣賞受賞。日本近代文学館理事長(1998~2008)を務め、その後名誉館長に就任。全国の文学館を訪ねた『文学館感傷旅行』(1997)などもある。特許、著作権関連で長年にわたり弁護士として国際的にも活躍。

[高橋世織]

『『定本宮沢賢治』(1962・七曜社)』『『鵜原抄』(1966・思潮社)』『『言葉なき歌――中原中也論』(1973)』『『羽虫の飛ぶ風景』(1976・青土社)』『『現代詩文庫71 中村稔詩集』『現代詩文庫137 続・中村稔詩集』(1977、1996・思潮社)』『『空の岸辺』(1980・青土社)』『『斎藤茂吉私論』(1983・朝日新聞社)』『『中村稔詩集――1944―1986』(1987・青土社)』『『中村稔歌集』(1989・芸風書院)』『『浮泛漂蕩』(1991・思潮社)』『『束の間の幻影――銅版画家駒井哲郎の生涯』(1991・新潮社)』『『宮沢賢治ふたたび』(1994・思潮社)』『『日の匂い』(1995・青土社)』『『新輯 うばら抄』(1996・青土社)』『『文学館感傷旅行』(1997・新潮社)』『『子規と啄木』(1998・潮出版社)』『『スギの下かげ』(2000・青土社)』『『中也を読む――詩と鑑賞』(2001・青土社)』『『人間に関する断章』(2002・青土社)』『『新輯・幻花抄』(2002・青土社)』『網代毅著『旧制一高と雑誌「世代」の青春』(1990・福武書店)』『安東次男著『連句の読み方――戦後詩論選』(2000・思潮社)』

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「中村稔」の解説

中村稔 なかむら-みのる

1927- 昭和後期-平成時代の詩人,評論家,弁護士。
昭和2年1月17日生まれ。昭和25年第1詩集「無言歌」を発表。十四行詩(ソネット)形式の叙情詩で知られ,42年「鵜原(うばら)抄」で高村光太郎賞,52年「羽虫の飛ぶ風景」で読売文学賞,平成4年「浮泛漂蕩(ふはんひょうとう)」で藤村記念歴程賞。評論に「言葉なき歌―中原中也論」「宮沢賢治」など。10年芸術院会員。日本近代文学館理事長,のち名誉館長。弁護士としても活躍,知的財産権の確立に貢献。17年朝日賞,同年「私の昭和史」で毎日芸術賞。22年文化功労者。埼玉県出身。東大卒。

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