コロナウイルス科ベータコロナウイルス属のMERS(マーズ)(Middle East Respiratory Syndrome)コロナウイルスによる急性呼吸器症候群。略称、MERS。中東地域で広く発生している死亡率の高い重症呼吸器感染症である。2012年6月、サウジアラビアで初めて患者が報告された。ヒトコブラクダが、保有宿主(感染源動物)であるといわれており、MERSが発生している中東地域では、ラクダとの接触や、ラクダの未加熱肉や未殺菌乳を摂取することが感染するリスクとなる。家族間、感染対策が不十分な医療機関などにおける限定的なヒトからヒトへの感染(飛沫(ひまつ)感染や接触感染)も報告されている。世界保健機関(WHO)の集計によれば、2019年11月末までに報告された診断確定患者数は2494人で、うち少なくとも858人が死亡した。
最初に報告された患者はサウジアラビアに渡航歴のある49歳のカタール人男性で、自国にて中等度の呼吸器症状を訴え、急激に重症化し、集中治療のためにイギリスの病院へ搬送された。痰(たん)などの検査で新種のコロナウイルスの遺伝子が確認されたが、2002年から翌年にかけて流行した重症急性呼吸器症候群(SARS(サーズ))の原因であるコロナウイルスと近縁ながら異なるウイルスであった。
2012年7月、サウジアラビアで入院11日後に集中治療室で亡くなった急性肺炎の60歳男性患者も、カタール人の発症例と同様に急性肺炎から腎不全(じんふぜん)を併発した。最初の遺伝子検査では、急性呼吸器ウイルスは陰性であったが、コロナウイルス共通の遺伝子だけが陽性で、コロナウイルスに感染した疑いが濃厚となった。その後の検査で、カタール人の発症例で検出されたものと99.5%同一のウイルス遺伝子が検出された。
その後、中東諸国を中心に似た症状の患者が続発したことから、新型のウイルス病であることが確実になった。国際ウイルス分類委員会は2013年5月、この病気を中東呼吸器症候群(MERS)、原因ウイルスをMERSコロナウイルスと命名した。
MERSは、初報告以来、中東諸国を中心に多数の発症事例が報告されていたが、2014年(平成26)4月以降、輸入症例が世界各地において報告され、日本においても患者が発生するおそれが高まったことから、同年7月に政令により指定感染症として定められた。翌2015年、指定感染症の期間終了に伴い、感染症予防・医療法の2類感染症に指定され、すべての患者の発生について保健所への届出が義務づけられた。
潜伏期間は2~14日(中央値は5日程度)で、無症状例から急性呼吸窮迫症候群(ARDS)をきたす重症例まである。感染すると、発熱、咳(せき)、息切れなどの症状を引き起こし、急速に肺炎を発症、しばしば呼吸管理が必要となる。下痢などの消化器症状のほか、多臓器不全(とくに腎不全)や敗血性ショックを伴う場合もある。高齢者および糖尿病、腎不全などの基礎疾患をもつ者の重症化傾向がより高い。特別有効な薬や治療法はなく、集中治療室での管理などの対症療法となる。
[田辺 功・編集部 2020年12月11日]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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