中東呼吸器症候群(読み)ちゅうとうこきゅうきしょうこうぐん(英語表記)Middle East Respiratory Syndrome

  • (感染症)
  • MERS
  • Middle East respiratory syndrome:MERS
  • ちゅうとうこきゅうきしょうこうぐん〔コキフキシヤウコウグン〕
  • エムイーアールエス

知恵蔵miniの解説

新種のコロナウイルスMERS(マーズ)コロナウイルス」による感染症。MERSは英名略称。感染すると2~15日の潜伏期間の後、肺炎下痢などの症状が現れる。糖尿病や心臓病などの慢性疾患患者や高齢者は重症化しやすく、死に至るケースも少なくない。ヒトからヒトへの感染報告はあるが、医療機関や家族間での濃厚接触による感染に限られている。2012年にサウジアラビアで初めて発見されて以来、中東諸国を中心に感染者が増加し、ヨーロッパ諸国やアメリカなどでも中東への渡航歴のある人の感染が確認されている。14年4月以降は特に感染者が急増しており、日本でも感染者が確認される可能性があることから、同年5月、厚生労働省は中東呼吸器症候群を感染症法の指定感染症と検疫法検疫感染症に指定する方針を決定した。

(2014-5-31)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

急性の呼吸器疾患を起こす感染症。略称 MERS(マーズ)。2012年サウジアラビアジッダで初めて症例がみられ,まもなく周辺の中東諸国で,のちにヨーロッパや北アフリカ諸国,中東から遠く離れた中国や大韓民国(韓国),アメリカ合衆国でも報告された。サウジアラビア国外における最大規模の流行は,2015年中東からの帰国者が発病したことに始まる,韓国での事例である。国際的な公衆衛生緊急事態を引き起こしかねないと懸念されたが,ヒトからヒトへの感染力が限定的だったため,世界的大流行は防げると考えられた。病原体MERSコロナウイルス。症状は感染後 2~14日で現れ,初期症状は咳嗽発熱,息切れなどだが,下痢吐き気嘔吐,筋肉痛などを生じることがある。急性呼吸促迫症候群 ARDS,血管内凝固症候群 DIC,腎不全,心膜炎などの合併症が引き起こされることがある。治療法は対症療法。深刻な容体に陥った患者の 60%が入院の必要に迫られ,報告された症例では患者の 30%が死亡している。ヒトからヒトへの感染の主要な経路は,密接な接触であるとみられる。中東における症例にはヒトからヒトへの感染の証拠がないものがあり,これは病原としてヒト以外の生物の関与を示している。諸研究から,中東やアフリカに生息するラクダの間で MERSコロナウイルスの感染が拡大していることが明らかとなった。同地域ではヒトがラクダと接触する可能性が高いことから,ラクダがヒトへの感染源,自然宿主ではないかと考えられている。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

2012年9月に初めて報告された死亡率の高い新種コロナウイルスの感染症。英語名の頭文字をとってMERS(マーズ)と略称される。中東各国とヨーロッパで感染者が確認されたが、いずれも滞在した中東での感染とみられる。2014年1月の時点で、世界保健機関(WHO)のまとめでは、患者は178人で、うち75人が死亡した。
 この病気だと最初に報告された患者はサウジアラビアに渡航歴のある49歳のカタール人男性で、2012年9月、自国にて中等度の呼吸器症状を訴え、急激に重症化し、集中治療のためにイギリスの病院へ搬送された。痰(たん)などの検査で新種のコロナウイルスの遺伝子が確認されたが、2002年から翌年にかけて流行した重症急性呼吸器症候群(SARS(サーズ))の原因であるコロナウイルスと近縁ながら異なるウイルスであった。
 2012年7月、サウジアラビアで入院11日後に集中治療室で亡くなった急性肺炎の60歳男性患者も、カタールの発症例と同様に急性肺炎から腎不全(じんふぜん)を併発した。最初の遺伝子検査では、急性呼吸器ウイルスは陰性であったが、コロナウイルス共通の遺伝子だけが陽性で、コロナウイルスに感染した疑いが濃厚となった。その後の検査で、カタールの発症例で検出されたものと99.5%同一のウイルス遺伝子が検出された。
 その後、中東諸国を中心に似た症状の患者が続発したことから、新型のウイルス病であることが確実になった。国際ウイルス分類委員会は2013年5月、この病気を中東呼吸器症候群(MERS)、原因ウイルスをMERSコロナウイルスと命名した。
 おもな症状は発熱、咳(せき)、肺炎など。感染すると2~15日の潜伏期を経て、重症肺炎のほか、下痢、腎臓障害などを引き起こす。特別有効な薬や治療法はなく、集中治療室での管理などの対症療法となる。患者の8割は男性、死者は60代以降で、糖尿病や心臓などの慢性疾患患者がほとんどである。高率ではないが家族内、病院内感染も起こりうる。[田辺 功]

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六訂版 家庭医学大全科の解説

どんな感染症か

 2012年6月にサウジアラビアで60歳の男性患者が肺炎および腎不全のためにある病院に入院し、この患者の喀痰から新規コロナウイルスが分離されました。それとは別に、2012年に英国においてカタールとサウジアラビアを訪問した49歳のカタール国籍の男性が呼吸器症状を示し、その患者から新規コロナウイルス(前記のウイルスと同じウイルス)が分離されました。両患者とも死亡しました。

 分離された新規ウイルスによる重症呼吸器感染症は、中東呼吸器症候群(Middle East respiratory syndrome、MERS:マーズ)と命名され、原因ウイルスはMERSコロナウイルスと命名されました。MERSコロナウイルスは、SARSコロナウイルスと同様にコロナウイルス科βコロナウイルス属に分類されます。なお、MERSは一般にはマーズと呼ばれています。

 中東やアフリカに生息するヒトコブラクダがMERSコロナウイルスを有していて、ヒトはヒトコブラクダから感染するのではないかと考えられています。人獣共通感染症の一つといえます。ヒトコブラクダが宿主だとすれば、中東においてMERSが流行し続ける可能性があります。

症状の現れ方

 発熱、(せき)、呼吸困難が主な症状で、そのほかに喀血、胸痛、筋肉痛などが認められます。消化器症状として腹痛、吐き気、嘔吐、下痢がそれぞれ約20%の患者で認められます。男性に多く、50歳以上の患者が全体の75%を占めます。

 2012年から中東でMERSの流行が確認されていますが、MERSの総患者数は、2015年7月時点の世界保健機関(WHO)の発表によると、サウジアラビアで最も多くの患者が報告され、世界中(多くは中東)で約1400人です。その致死率は40%にものぼります。

 2015年5月にサウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタールを訪問した韓国籍の人が韓国に帰国後MERSを発症し、その輸入感染事例が感染源となった国内流行が韓国で発生しました。約2カ月で流行は終息しましたが、中国における韓国からの輸入感染事例1名を含めて、2015年7月13日時点で全体で186人(36人が死亡、致死率約20%)の患者が発生しました。

検査と診断

 中東を訪問した人、中東で生活している人が呼吸器感染症状を示した場合に検査の対象となります。「疑い患者」を医師が診た場合には、最寄りの保健所に相談しなければなりません。咽頭スワブ(拭い液)を採取し、その中にMERSコロナウイルスが存在するか否かを、ウイルス分離検査または遺伝子増幅検査により確認します。日本の場合、各都道府県等の地方衛生研究所や国立感染症研究所において検査が実施できる体制が整っています。

治療の方法

 特異的な治療法はなく、対症療法が基本です。MERSは患者からヒトに、特に院内感染の形で流行が拡大することから、院内における感染予防策がとても重要です。日本の感染症法では2類感染症に指定されているので、診断した医師はただちに最寄りの保健所に届けなければなりません。

西條 政幸

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知恵蔵の解説

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