改訂新版 世界大百科事典 「中間施設」の意味・わかりやすい解説
中間施設 (ちゅうかんしせつ)
halfway house
transitional facilities
もともとは刑務所に服役した受刑者や精神病院に入院していた患者が社会復帰をする際に,それを援助するために設けられた施設である。長期間にわたりこのような一般社会から隔離された場所で生活をしていると,すぐには一般社会の生活に適応することが困難となる。そのために再び犯罪を犯したり,病気の再発や悪化をまねくことが多い。そこで刑務所や精神病院ほどには管理的でない環境で,一定期間または一日のうち数時間を過ごすことで,一般の社会生活に適応できるような訓練を行う施設として第2次大戦前から保護作業場やデー・ホスピタルなどが設けられていた。同様な施設に1953年にカナダのモントリオールに初めてつくられたナイト・ホスピタルがあり,これも各国で設けられた。これらの中間施設は欧米諸国では一般的な施設であるが,日本においては保健所で行われている精神障害者のためのデー・ケア以外にはあまり発展していない。
ところが1970年代に入り,人々の間に高齢化社会への危機意識が高まるにつれて,日本においても老人福祉や老人医療の分野で中間施設の役割が注目されはじめ,デー・ホスピタル,ハーフウェー・ハウス,デー・サービス・センターと呼ばれる老人のための中間施設が登場してきた。これらの施設は,病院での入院治療の必要はなくなったが,身体的機能が家庭生活を送るまでには回復していない老人や,身体的・精神的になんらかの援助を必要としている老人などを対象としており,病院や老人ホームという入院・入所施設と家庭との中間に位置する施設と考えられている。
しかし,老人のための中間施設としてもっとも普及しているのは,老人保健法に規定されている老人保健施設である。この施設も当初は病院に入院している高齢者,とくに社会的入院といわれる介護中心の高齢者の家庭への復帰を目ざしていたが,1988年度からの本格的設立の頃には,病院と特別養護老人ホームの中間に位置する施設という意味での中間施設となった。老人保健施設は提供するサービスの内容,職員の配置基準,居室の広さなどは病院と特別養護老人ホームの中間に位置し,当初は入所期間を6ヵ月としていたが,現実には長期入所者が増えている。医療保険の対象施設であるため,医療費の削減効果は期待できない状況である。1989年に策定された〈高齢者保健福祉推進十か年戦略〉(ゴールドプラン)では緊急整備施設の一つとされ,1999年までに28万床が目標数値として示された。この数値は新ゴールドプランにも引き継がれている。また公的介護保険法では施設サービスの一つとされている。
執筆者:岡本 多喜子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報