歌舞伎狂言の成立による分類の一つ。義太夫狂言。院本(いんぽん)物,義太夫物,竹本劇,でんでん物(太棹三味線の音からとる),丸本歌舞伎(戸板康二の造語)などの別称がある。人形浄瑠璃で演じた作を歌舞伎に移行したものである。丸本物は,元来人形のために書いたものであり,作者がのびやかに構想を立てているので,戯曲としての骨格が太く文学性に富み,細密な趣向が凝らされているのが特色である。1708年(宝永5)ごろから歌舞伎への移入がはじまり,15年(正徳5)の近松門左衛門作《国性爺合戦》が京坂や江戸で競って歌舞伎化されたのが流行の端緒となった。《菅原》《千本桜》《忠臣蔵》の三大名作はすべてこの移入作であり,ほかにも《妹背山》《廿四孝》《近江源氏》《嫩軍記》《夏祭》など,名作に数えられる。演出上の特色としては,原則としてせりふ以外の地の文を竹本(ちょぼ)が語ること,人形の演出の影響を受けた様式的で大げさな身振り,音楽劇的な演出の色彩が濃いこと,せりふ回しが〈糸に乗る〉ことがあるなどがあげられる。
執筆者:藤田 洋
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(山本健一 演劇評論家 / 2007年)
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…この結果,歌舞伎は人形浄瑠璃の陰となり,〈歌舞伎はあれども無きがごとし〉と評されるほどであった。《菅原伝授手習鑑》《仮名手本忠臣蔵》《義経千本桜》をはじめ《夏祭浪花鑑》《双蝶々曲輪日記(ふたつちようちようくるわにつき)》《一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)》《源平布引滝》など,現代の歌舞伎における〈丸本物〉の代表的レパートリーになっている作品の大半のものは,この時期に創作され,ただちに歌舞伎化されたものである。 このころ,初世瀬川菊之丞,初世中村富十郎ら女方の名優たちの活躍によって,〈所作事〉が確立する。…
…義太夫節の別称,また歌舞伎専門の義太夫節演奏者の称。義太夫狂言(丸本物)では,浄瑠璃の詞章のうちで登場人物のせりふの部分は俳優が自分でしゃべり,地の文章と節のついた部分を竹本が受け持つのが原則である。竹本は舞台上手の上部に設けられた御簾(みす)内,もしくは特別に設けた床(ゆか)で演奏する。…
※「丸本物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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