中国古代の数学書で現存する10種類をとって『算経十書(さんけいじっしょ)』とよぶが、そのうちの一つ。現存する中国最古の数学書(これより古い『周髀算経(しゅうひさんけい)』は天文に関する数学書)である。著者不詳で、1世紀ごろの成立。全部で9章からなり、その内容は次のとおりである。
(1)方田章 土地の面積を測る計算法を述べている。長方形の面積から始まり、円形の面積に至る。分数の加減乗除の詳しい説明がある。
(2)粟米(ぞくべい)章 穀物相互の交換を取り扱う、比例の問題である。
(3)衰分(すいぶん)章 差等をつけて分配する問題。比例配分である。
(4)少広章 方田章の逆。土地の面積から一辺の長さを求める問題。開平の計算の説明がある。
(5)商功章 土木工事に関する問題。城垣を築いたり、溝渠(こうきょ)を掘ったりする仕事に関連する。
(6)均輸章 租税として徴収される穀物を中央までの距離の遠近によって調節する問題。
(7)盈(えい)不足章 盈は過剰の意。盈不足すなわち今日の過不足算、および同様の解き方をする複仮定法(仮定法を二度使うやり方)による解法。
(8)方程章 二元あるいは三元の連立方程式を今日における加減法で解く方法。ここで正負の数の計算が出てくる。正負の数の扱いとしては世界でもっとも古い。
(9)句股(こうこ)章 直角三角形に関する問題。前半は相似三角形の解法、後半は三平方の定理の応用である。
[大矢真一]
中国古代の代表的数学書で,唐代には算学(数学者養成機関)での教科書となった《算経十書》の筆頭に挙げられる。著者並びに著述年代は不明であるが,西暦1世紀の後漢時代には存在し,秦・漢の数学的知識を集大成したものである。方田,粟米,衰分,少広,商功,均輸,盈不足(えいふそく),方程,句股(こうこ)の9章に分かれ,246問が含まれる。租税,土木工事,測量,輸送など,官吏が行政上必要とする数学上の問題が網羅されている。数学的には算術や初歩の代数学で処理される問題が取り扱われ,平面および立体の求積問題をはじめ,比例計算,一次多元方程式,二次一元方程式,ピタゴラスの定理の応用,負数を四則計算にとり入れたことなど多方面にわたっている。三国魏の劉徽(りゆうき)が263年(景元4)に加えた注釈はきわめてすぐれており,ことに円周率の計算が注目される。日本には平安朝時代に輸入されたが,その影響はほとんどなかった。しかし中国では数学書の模範として後世に大きな影響を及ぼした。
執筆者:藪内 清
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…中国の科学とギリシアにさかのぼるヨーロッパ科学を比較すると,顕著に看取できることは,後者に比べて中国科学は理論に乏しいことである。数学を例にとれば,中国の代表的古典数学書《九章算術》にみられるように,それは官僚機構に奉仕する実用的数学であった。元代には李冶の《測円海鏡》のようなやや特殊なものがあるが,明代に流行した《算法統宗》はやはり実用数学であった。…
…早くから官僚制度が発達した中国では,行政上の必要と結びついて数学が発達したといえよう。漢代に成立した《九章算術》は古代数学を代表する著述で,租税,輸送,土木など行政上必要な計算例を網羅している。問題はすべて具体的な数字で与えられているが,かなり程度の高いもので,各種の平面や立体を取り扱うほか,多元一次方程式や一元二次方程式,ピタゴラスの定理の応用などが含まれる。…
…ここで使われた教科書は,中国および朝鮮の古算書である。《九章算術》《孫子算経(そんしさんけい)》《五曹算経(ごそうさんけい)》《三開重差(さんかいじゆうさ)》などである。これより前,孝徳天皇の大化2年(646)の詔に,〈書算に工(たくみ)なる者を主政主帳とせよ〉とあるから,民間人の中に数学をよくする者がいたのであろう。…
※「九章算術」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新