乳様突起炎(読み)にゅうようとっきえん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「乳様突起炎」の意味・わかりやすい解説

乳様突起炎
にゅうようとっきえん

急性中耳炎の一つで、乳様突起とは耳介後方の皮膚の下に触れる側頭骨の突起をさし、炎症がその蜂(はち)の巣のような構造(蜂巣(ほうそう))の中まで進み、膿汁(のうじゅう)が貯留した状態を乳様突起炎という。中耳炎が発症して1週間以後におこることが多い。耳の痛み、発熱難聴など中耳炎の症状が増悪し、とくに耳介の後方(乳様突起領域)の疼痛(とうつう)や圧痛が強く、腫脹(しゅちょう)してくる。ときには耳介が大きく目だつようになり、激しい痛みがある。耳後部のリンパ節が腫脹して、圧痛のあることも少なくない。外耳道深部の後上壁は乳様突起(乳突洞)と隣接しているので、外耳道の後上壁が浮腫性となり下垂する。鼓室および乳様突起蜂巣内に膿汁が貯留し、鼓膜が膨隆して、ついには鼓膜穿孔(せんこう)をおこし、膿性の耳漏(耳だれ)が流出する。薄い蜂巣内の骨性の隔壁は溶解して融合する。ときには乳様突起の外側の骨壁が破壊され、骨膜下膿瘍(のうよう)をつくり、それが胸鎖乳突筋に沿って頸(けい)部にまで流下することもある。

 顔面神経麻痺(まひ)や頭蓋(とうがい)内合併症をおこす危険もあり、絶対安静、鎮痛剤鎮静剤投与局所冷罨法(あんぽう)とともに広範囲の病原菌に有効な抗生物質の全身的な投与を行う。しかし、多くの場合は根治的な乳様突起開放手術が必要である。

[河村正三]

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改訂新版 世界大百科事典 「乳様突起炎」の意味・わかりやすい解説

乳様突起炎 (にゅうようとっきえん)
mastoiditis

乳様突起mastoid processは耳(耳介)の後方にある骨の突起であるが,この内側には中耳腔の一部(その形から蜂巣とよばれる)が広がっている。中耳に炎症がおこり,乳様突起の蜂巣にも炎症がおよぶと,単なる中耳炎より治りにくく,症状や治療法もかわってくるので,中耳炎と区別してこの名称がある。急性乳様突起炎(または乳突洞炎)では,急性中耳炎のあと鼓膜の穿孔(せんこう)から耳漏(耳だれ)が止まらず,耳のレントゲン写真で乳突蜂巣部に骨の変化がみられる。炎症がつよいと,外耳道がはれたり,耳介がもち上がったり,発熱がみられる。抗生物質の治療で大部分の例は治癒し,鼓膜穿孔も閉じるが,炎症のおさまらぬ例では,手術が必要となり,乳様突起を削って蜂巣の粘膜や骨の病変を除去する(乳様突起削開術)。慢性中耳炎では多くの場合に乳様突起にも炎症があるが,慢性乳様突起炎という名称はあまり使われない。急性でも慢性でも乳様突起に炎症があると,髄膜炎や脳膿瘍など頭蓋内合併症をおこす危険がある。
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