乾漆像(読み)カンシツゾウ

デジタル大辞泉 「乾漆像」の意味・読み・例文・類語

かんしつ‐ぞう〔‐ザウ〕【乾漆像】

乾漆2技法を用いて造られた彫像脱活乾漆には東大寺法華堂不空羂索観音像・興福寺八部衆像など、木心乾漆には聖林寺十一面観音像などがある。

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精選版 日本国語大辞典 「乾漆像」の意味・読み・例文・類語

かんしつ‐ぞう‥ザウ【乾漆像】

  1. 〘 名詞 〙 乾漆で作られた彫像。主として上代奈良時代)につくられた。
    1. [初出の実例]「本尊不空羂索観音は木心乾漆像にして」(出典:日本美術史(1891頃)〈岡倉天心〉天平時代)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「乾漆像」の意味・わかりやすい解説

乾漆像
かんしつぞう

漆(うるし)と麻布(まふ)を材料としてつくった像。日本には7世紀ごろ中国からその技術が輸入されたらしい。当時は(そく)、即(そく)、夾紵(きょうちょ)などとよばれた。その製法に2種あり、その一つは脱活(だっかつ)乾漆(脱乾漆)とよばれる。これは、粘土で像のだいたいの形をつくり、その上に麻布を漆で何枚も(等身像で7、8枚という)はり合わせて層をつくり、内部の土を取り出し、その空洞に骨組みの木枠をつくり、像の表面を「こくそ」(漆に木の粉や抹香(まっこう)を混ぜたもの)で仕上げ、漆箔(はく)や彩色をする。東大寺三月堂不空羂索観音(ふくうけんじゃくかんのん)像、興福寺の八部衆や十大弟子像はこれである。もう一つは木心(もくしん)乾漆といい、木でだいたいの形をつくり、細部の表現を「こくそ」の盛り上げでする。かなり細部まで木で仕上げ、薄く「こくそ」をかけたものから、木心がほとんど柱のような像まで、いろいろである。この技法は脱乾漆より質の悪い漆でもつくることができるので、国家財政破綻(はたん)をきたした奈良時代末期に行われた、いわば脱乾漆の代用品であった。唐招提寺(とうしょうだいじ)講堂諸像中にはこの種の像がある。

 乾漆像は、材料の可塑性が奈良時代の写実的作風とあって大いに流行したが、制作手間がかかり、漆の値段も高かったので、しだいに衰えた。しかし木心乾漆像は、平安初期に入っても行われている。その後、鎌倉室町時代に、宋(そう)の彫刻の影響で脱乾漆の作例が多少みられる。

[佐藤昭夫]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「乾漆像」の意味・わかりやすい解説

乾漆像
かんしつぞう

漆を用いてつくった像。中国,唐代,日本の奈良時代に盛行。乾漆は漆工の技法で,彫刻や工芸に用いられ,中国では夾紵(きょうちょ),日本では当時は即,そくと呼ばれた。制作法には脱乾漆(脱活乾漆)造と木芯(心)乾漆造がある。脱乾漆は泥土で原型をつくり,その上に漆を塗布した麻布を幾重にも張り,乾燥後,中の泥土を除去して頭部,手などの細部を木粉と漆を混ぜた木屎漆(こくそうるし)で成形。乾燥後に漆を塗り,金箔を押し,彩色して完成する。木芯乾漆は木でだいたいの形をつくり,木屎漆で細部を成形し金箔や彩色で仕上げたもの。前者に東大寺法華堂(三月堂)の『不空羂索観音像』,後者に高山寺の『薬師如来像』などの遺例がある。

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旺文社日本史事典 三訂版 「乾漆像」の解説

乾漆像
かんしつぞう

奈良時代に盛行した漆を用いた彫刻像
乾漆を用いてつくった像で,製法にはつぎの2種があった。(1)脱活乾漆…粘土で原型をつくり,その上に漆で麻布を数枚はり重ね,乾燥したのち中の土を脱し去り,本枠を入れる。(2)木心乾漆…木彫で像のあらづくりをし,麻布を漆ではってゆく。いずれも細部は木粉に漆を混ぜて仕上げた。

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世界大百科事典(旧版)内の乾漆像の言及

【乾漆】より

…紵は麻布の一種をいい,塞は布によってふさぐとの意であろう。乾漆は主に近代の用語で,初めは後述の乾漆像について主に用いられ,のち一般化して現在は工芸,考古学の分野でも用いられる。
[中国,朝鮮]
 夾紵技法はおそらく中国で始まり,すでに漢代には山西省陽高県出土の前漢の夾紵棺,楽浪出土の後漢建武21年(45)の夾紵耳杯などさまざまな容器や飲食器の遺例がある。…

※「乾漆像」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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