中国,唐の善導の《観経疏》散善義に説かれているたとえ話で,群賊悪獣に追われる旅人の前によこたわる荒波の水の河と炎熱の火の河を人間の貪り(むさぼり)と怒りの煩悩に,その二河にはさまれて西にのびる幅のせまい一条の白道を極楽浄土への往生を願う清浄の信心にたとえたもの。いかに煩悩にまみれても,白道を進めば阿弥陀仏の西方浄土に至りうることを説く。
執筆者:礪波 護 日本において,この比喩譚は極楽往生を欣求(ごんぐ)する浄土信仰者の信心を励ますため,鎌倉時代の浄土教家のあいだに広く流布した。《二河白道図》の遺品は,京都府粟生(あお)光明寺,兵庫県香雪美術館の両本が著名で,やや構成を異にするが,手前に闘争激しい現世の光景を,二河の向こうに極楽浄土の景観を描く点は両本に共通する。
執筆者:浜田 隆
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
浄土往生(おうじょう)を願う者が迷いの世界から極楽(ごくらく)に至る道筋を、水・火の二河をもとに説き明かしたたとえ。唐の善導(ぜんどう)(613―681)が『観経疏(かんぎょうしょ)』散善義(さんぜんぎ)で記述したのによる。人が西に向かって行くと、南に火の河、北に水の河があり、その中間に4、5寸(約12~15センチメートル)の白道があって、水火が猛然と押し寄せ、後方からは群賊や悪獣が迫ってくる。進退窮まり、白道を渡ろうかと思案していると、東岸から早く渡れ、死の災いはないという声、西岸からかならず守るからという声に励まされ、信じて西岸に達した。火の河は人間の瞋(いか)りや憎しみ、水の河は愛着や欲望、白道は浄土往生を願う清浄(しょうじょう)心、群賊たちは人間の迷いから生ずる悪い考えなど、東岸の声は娑婆(しゃば)世界の釈尊(しゃくそん)の教え、西岸の声は極楽浄土の阿弥陀(あみだ)仏の呼び声に例えたもの。日本では絵解きとして広く知られた。美術的遺品では、鎌倉時代の制作になる京都・光明(こうみょう)寺、兵庫・香雪(こうせつ)美術館の図が名高い。
[石上善應]
出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
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