函館(はこだて)市五稜郭町に現存するわが国最大・最初の西洋式稜堡(りょうほ)式城跡。正式名は亀田(かめだ)役所土塁というが、V字形の堡頭(ほとう)をもった五稜星形築城なので五稜郭と通称されている。幕府は神奈川条約による箱館(はこだて)開港と、ロシアの南下政策などに対応するため、1854年(安政1)6月、箱館奉行(ぶぎょう)を配置、奉行所として亀田役所土塁、弁天岬台場などの築造を計画した。五稜郭は1857年(安政4)に着工、64年(元治1)に竣工(しゅんこう)した。設計と監督は伊予(いよ)大洲(おおず)藩(愛媛県大洲市)出身の武田斐三郎成章(あやさぶろうなるあき)で、西洋の築城書をもとに築城したといわれる。星形の稜堡式築城は、郭内からの射撃に死角がないことが特長で、同じく幕末に築造された長野県南佐久郡の竜岡(たつおか)城も同型のものである。五稜郭は郭内約25万1400平方メートル、郭高約5メートル、南西の追手門(おうてもん)外に馬出(うまだし)として三角土塁があり、郭には濠(ほり)が巡らされ、濠外の東西南三方には、さらに土塁が設けられている。郭内には木造瓦葺(かわらぶ)き望楼付き900坪の本庁舎など、30余棟の建物が並んでいた。
1868年(慶応4)4月、新政府は箱館裁判所を設置し、総督に清水谷公考(しみずだにきんなる)を任命した。その後、箱館戦争終了の69年(明治2)5月まで、五稜郭は榎本武揚(えのもとたけあき)の率いる旧幕府軍に占拠され、その本拠となった。戦争の結果、本庁舎に付属する望楼が一部破壊された。本庁舎は戦争後の71年に解体された。73年、五稜郭は陸軍省に移管されたが、1914年(大正3)公園として開放、サクラの名所となった。22年国の史跡、52年(昭和27)特別史跡に指定された。現在、市立博物館分館があり、復原された兵糧庫が一般公開されている。
[船津 功]
北海道函館市にある城址。江戸幕府が蝦夷地(えぞち)支配と北辺防備のために,箱館奉行所として計画した日本最初の洋式城郭。伊予大洲藩出身の蘭学者,諸術調所教授武田斐三郎(あやさぶろう)がフランス築城書のオランダ語訳本を参考にフランス軍人の指導のもとで設計,1857年(安政4)着工,64年(元治1)に竣工した。その築城法は,大砲の発達に伴って16世紀以降フランスを中心にヨーロッパで流行したもので,平地に星形に濠を掘り,その土で土塁を築き,五つの突角部(稜堡)に砲座を置く。高い城壁や櫓は設けず,大砲攻撃に耐えるよう土塁は低く,厚くし,土塁の外側の石垣は上部を跳ね出し式にする。濠外にもう一重の土塁を設ける計画であったが,費用の関係で一部しかつくられず,3ヵ所の虎口(こぐち)に設けるはずの馬出しの桝形も大手口だけにとどめられた。郭内は一辺が180mほどの正五角形の広場からなり,そこには奉行所,役宅などが建てられ,籠城できるように考慮された。1868年(明治1)五稜郭の戦で建築物は焼失。現在は食糧庫とみられる1棟をのこすのみだが,土塁,石垣,濠はよく原形をとどめている。跡地は1913年公園として開放され,22年史跡,52年特別史跡に指定された。桜の名所として知られる。なお,長野県佐久市の旧臼田町田口にのこる竜岡城も五稜郭式の城で,幕府大番頭大給(松平)乗謨(おぎゆうのりかた)が1866年(慶応2)に完成,規模は函館の約5分の1である。
執筆者:宮上 茂隆
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亀田御役所土塁とも。北海道函館市にある城跡。五つの角をもつ星形をした日本最大の西洋式堡塁。蘭学者武田斐三郎(あやさぶろう)成章の設計。1857年(安政4)幕府の箱館奉行所として着工し,7年を要して完成。完成後まもなく榎本武揚が籠城し,箱館戦争がおきたため,城内の建物は被害をうけ,71年(明治4)廃城。発掘調査により幕末の品々が出土し,箱館戦争時の改修の跡も確認された。城跡は国特別史跡。
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