日本大百科全書(ニッポニカ) 「京本通俗小説」の意味・わかりやすい解説
京本通俗小説
けいほんつうぞくしょうせつ
中国、宋(そう)代の口語短編小説集。編者、成立年代不明。宋代の都市で流行した講談の台本、いわゆる話本(わほん)を集めたもので、もとの巻数は不明だが、現在伝わるのは第10巻から第16巻に至る『碾玉観音(てんぎょくかんのん)』『菩薩蛮(ぼさつばん)』『西山一窟鬼(せいざんいっくつき)』『志誠張主管』『拗相公(ようしょうこう)』『錯斬崔寧(さくざんさいねい)』『馮玉梅(ふうぎょくばい)団円』の7巻で、1915年、書誌学者の繆荃孫(びゅうせんそん)が、元(げん)代の写本の復刻と称して、叢書(そうしょ)「煙画東堂小品」に収めて出版したもの。その底本の存在には疑問があり、明(みん)代の俗本の写本ではないかと考えられている。いずれも題名を変えて『三言(さんげん)』に採録。底本の筆写の時期はともかく、内容は古い口語を用い、詞(し)(歌辞)と散文を交錯させた形式により、講釈師の語りぶりを伝えていて、南宋時代の話本の原型をとどめ、中国最古の口語小説といえる。なお底本にはほかに『金主亮荒淫(きんしゅりょうこういん)』という巻があったとされ、1917年、葉徳輝によって刊行されたが、明末ごろの偽作とするのが定説になっている。
[今西凱夫]
『今西凱夫他訳『中国古典文学大系25 宋・元・明通俗小説選』(1970・平凡社)』