京都七口関(読み)きょうとななくちのせき

改訂新版 世界大百科事典 「京都七口関」の意味・わかりやすい解説

京都七口関 (きょうとななくちのせき)

中世諸国より京都に入る7街道入口に設置された関所。鎌倉時代以降荘園の発達と国家財政の窮乏化とにより,社寺の造営・修理や,交通施設の建設・修理などのために利用者から一定の使用料を徴収するようになった。この通行税の徴収所が中世一般にみられる関所である。このような経済的関所はしだいに増加し,幕府の抑止策がとられたにもかかわらず,南北朝の動乱以来京都を中心にその数は激増した。禁裏(御所)では年貢・公事の代替財源として,京都の入口に禁裏率分(そつぶん)関を設立した。これらの関所は諸官衙の長官が管理し,例えば禁裏御料所内蔵寮東口四宮川原関率分は内蔵領長官山科家,御厨子所(みずしどころ)率分は万里小路(までのこうじ)家,主殿寮(とのもりよう)率分は壬生(みぶ)家,左右衛門府率分は東坊城家・菊亭家で,このほか内侍所・御服所などの率分所があった。率分所といわれるのは,年貢・公事物以外の商品に何分の1かの税を課したからである。禁裏率分所の初見は,延慶4年(1311)2月11日付院宣の案文(山科家古文書)にみえる〈東三ヶ口〉で,これは粟田口・大原口・四宮河原(山科口)とする説と木幡口・大津口・坂本口とする説があり,ここで炭薪雑物などから税の徴収を公認している。1333年(元弘3)の《内蔵寮領等目録》によると,内蔵寮領の率分所は東口四宮川原率分(毎月公事1貫500文,見参料3貫文)と,長坂口率分(毎月公事2貫500文,見参料3貫文)の2ヵ所で,後者は近年武家のため止められていると記している。

 俗に七口の関というが,七というのは京都を起点とする七つの街道に由来するのであろうが,実際には7ヵ所に限定されたのではなく,主要道路の出入口の意味と解される。例えば前述の御厨子所率分だけで7ヵ所あり,それに鞍馬口(出雲口)・木幡口(宇治口)や,内蔵寮領の東三口などもある。永正6年(1509)12月13日付《大内氏年寄杉興重外四名連署奉書案》によると,〈八之口内鳥羽分事〉とみえ,八口ともいう。

 七口の関が史上に現れるのは,室町中期に関所撤廃運動がおこったときからである。すなわち1441年(嘉吉1)8月,嘉吉の乱で幕府の権威が衰えたのに乗じ,京都近郊の土民らが徳政一揆を起こし,あわせて七口の関所などの廃止を要求した。土民の圧力に屈した幕府は一時関所の停廃に踏み切ったが,禁裏・諸公家らの復活要求を入れてまもなく山科家管理の内蔵寮率分所のみ復活を認めた。そこで万里小路時房も御厨子所率分の復活方を訴え,同年11月27日ようやく許可されたので,代官を遣わして侍所公人とともに各関所を設立した。《建内記》によると,このときの御厨子所率分所とそれを委任されていた代官名は次のとおりである。(1)八瀬口:月性院,(2)今路道下口:月性院,(3)東寺口:松田,(4)法性寺口:松田,(5)鳥羽口:商人刊部,(6)七条口:柿屋出雲入道,(7)長坂口:柿屋出雲入道。このほか翌12月には東海道口(山科安祥寺辺)と木幡口(宇治口)も開設した。

 幕府は1459年(長禄3)8月,伊勢皇太神宮造営費用のため七口に各1関の新関を設置し(《碧山日録》),78年(文明10)1月には内裏修理と称してまた新関を設置している。これに対して同年12月山城土一揆が起こり,七口の関所撤廃を幕府に要求したが実行されなかった。80年9月には七口の関所存置が誘因となって山城土一揆が再発,連日酒屋土倉を襲い,10月には実力で七口の関所を打ち破った。このときの関所設立目的は将軍足利義政夫人日野富子の収益のためであった(《大乗院寺社雑事記》)。その後81年,85年,1509年(永正6)と3回にわたって新関を設けるが,その廃止をめぐってしばしば血なまぐさい一揆が起こり,一時的には廃止に成功してもまもなく旧に戻るのが通例であった。このようにして得た関銭収入は,時代・場所などによって一定でないが,《山科家礼記》によると1477年には,西口(西丹波口)160貫文余,長坂口120貫文となっており,各関所の代官は領家の公家に補任料を払い,請負額なども契約していたという。豊臣秀吉の時代になって関所は徹底的に廃止されたが,その名称は近世以後もそのまま残り,大原口・鞍馬口・粟田口(東三条口)・伏見口・鳥羽口・丹波口(西七条口)・長坂口が七口と称されていた。
率分所
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