中世に徳政を要求して起こった土一揆(つちいつき)。荘園単位で領主に年貢の減免などを要求して起こった荘家の一揆と区別される。1428年(正長1)以後のおもな土一揆はこの徳政一揆である。鎌倉幕府のいわゆる永仁の徳政令以来,債務破棄と土地取戻しを内容とする徳政を期待する風潮が諸階層の間に強まってきて,それを実行する各地の散発的な動きが積み重なって,正長の土一揆に爆発したといえる。徳政一揆の内容は,土倉を襲って借書を焼き質物を取り戻すことによって個別に債務を破棄するいわゆる私徳政と,幕府や守護などの地方権力に徳政令の発布を要求することの二つからなる。私徳政の裏付けのために徳政令を引き出すのであって,徳政と号するという行為が両者の結びつきを示している。正長の土一揆では幕府の徳政令は引き出せなかったが,京都を襲った人々はほぼその目的を達して引きあげたようである。京都に呼応した他の地方では,守護などの地方権力が徳政令を出し,また郷村単位に徳政を施行したところもあった。41年(嘉吉1)の嘉吉の土一揆のときには幕府の徳政令がかちとられたが,47年(文安4)には徳政禁制,54年(享徳3)は分一銭(ぶいちせん)(債務額の10分の1)を幕府に納めた者だけに認める分一徳政令,57年(長禄1)は逆に債権者に分一銭を納入させてその債権を保障する分一徳政禁制になった。土一揆参加者が幕府の徳政令から直接恩恵を被る可能性はますます小さくなったのである。にもかかわらず徳政と号する蜂起が衰えながらも16世紀中ごろまで続けられたのは,実力で私徳政を断行するところにおもな内容があったからである。
→徳政
執筆者:村田 修三
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室町時代に徳政を要求して蜂起した土一揆。実態がわかる京都の場合,近郊で結成された土一揆が,市中の酒屋・土倉など金融業者を襲撃,借用証文を破棄し,質物を強奪して貸借関係を破棄する私徳政を行うのがふつうだった。みずからの貸借関係のみならず他者のそれをも破棄した結果,一揆に参加していない公家・僧侶などにも質物が返還される場合もあった。さらに幕府に徳政令の発布を要求し,幕府はしばしば押しきられた。応仁の乱前夜から,大名の将兵が陣立(じんだて)と称して酒屋・土倉に押しいり,質物を強奪することも頻繁となる。高利貸資本が農村に浸透し,債務の増大によって土地を剥奪された農民らの土地返還要求が,この一揆の背後にあったといわれる。
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…山門統制下の馬借が土一揆で指導的役割を果たした結果,近江の土一揆は特殊な政治的色彩を帯びることもあった。41年(嘉吉1)に京都周辺で起こった大規模な徳政一揆も近江に端を発したもので,しかも馬借が先頭に立っているが,馬借は山門と六角氏の対立の中で六角氏の京都の宿所を襲うなど,徳政一揆とは別の目的で行動している。しかし土一揆が徳政を要求することは,金融面での大勢力でもあった山門との対立を招き,山門の支配力の低下につれて,馬借が山門に敵対する傾向も見られるようになった。…
…室町時代の社会の基層部には,なお移転した物,とくに土地は本来の持主のもとに帰るのが正しい姿であるという観念が強く存在し,種々の〈交替〉観念にもとづく契機により私徳政が行われる,〈徳政状況〉ともいうべき状態が存在した。この私徳政の形態としては,地発(じおこし)などのように個別的にひろく移転した所有物を取り戻すかたち,また一揆や郷村が集団のメンバーに限定して徳政を施行する在地徳政,さらに徳政一揆が施行する私徳政などがあった。徳政一揆は,徳政令を要求するいっぽう,徳政と号して広く私徳政を施行した。…
…この強訴逃散は荘家の一揆(しようけのいつき)とも呼ばれ,武力蜂起に近いものもあった。荘家の一揆は荘園単位の闘争で,荘園の枠を超えて徳政を要求した土一揆つまり徳政一揆とは区別されるが,両方を含めて土一揆と呼ぶことができる。荘家の一揆を基盤にして徳政一揆が起こると考えられるが,徳政一揆の時代になっても,個別の領主との間では荘家の一揆が起こる。…
※「徳政一揆」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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