率分所(読み)りつぶんしょ

精選版 日本国語大辞典 「率分所」の意味・読み・例文・類語

りつぶん‐しょ【率分所】

〘名〙 平安時代、非常の用に供するため、大蔵省に収納する官物うち、十分の二を分けて別に貯蔵した倉。大内裏内の東北部にあった。率分蔵。率分堂。〔夕拝備急至要抄(14C前‐中か)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「率分所」の意味・わかりやすい解説

率分所 (りつぶんしょ)

平安時代に大蔵省に付属する機関として置かれたもので,正蔵率分所,率分堂ともいい,〈そつぶんしょ〉とも読む。その起源は明らかではないが,左中弁,大監物,大蔵省の輔,民部省の輔,主計頭が勾当(こうとう)として収納物の出納の管理にあたる。《拾芥抄》など後世文献は,大蔵省に納入される調庸物等の10分の2を別置したのが率分所であるとするが,もともと率分とは割合をいう言葉で,9世紀以降諸国からの調庸物の未進が著しくなると,国司には当年分の調庸のほかに,旧年未進分の何割かを納入することが義務づけられ,後者を率分の調庸といった。上記の左中弁以下の勾当は,本来大蔵省の収納物の出納を管理していたメンバーと同じであるから,はじめ大蔵省の正蔵(正倉)と率分の調庸の両方の出納にたずさわっていた組織が,大蔵省の機能が無実化するにしたがい,大蔵省に代わる機関として,率分の調庸のみでなく正蔵の収納物をも管理するものとなったのが,率分所といわれるものであったと推定される。
執筆者:

〈率分関(そつぶんせき)〉ともいう。内蔵寮などの中央官庁が,地方国衙から上納されてくる通常経費の不足分を補う目的で設置した関所。関所として置かれた率分所の早い例では,徳治年間(1306-08)京都の東三ヵ口に設けられた内蔵寮率分所がある。1333年(元弘3)の〈内蔵寮領等目録〉には,山科家の管理する率分所として,京都東口の四宮川原関長坂口関とがみえる。鞍馬口に設けられた万里小路家の管理する御厨子所(みずしどころ)率分所をはじめ,京都の入口にあたる七口には,内侍所,主殿寮,御服所,左衛門府などが率分所をもっていた。前述の〈内蔵寮領等目録〉によれば,このような率分所からの収入は,長坂口からは毎月2貫500文,東口四宮川原関からは毎月3貫文と薪300把であった。時代が下って1477年(文明9)ころには収益も増加して,長坂口は月額9貫文の上納を条件に代官と契約が交わされている。この長坂口と同様,多くの率分所は南北朝から室町期になると,有力社寺や守護の手にその管理がゆだねられてくる。近江の今堅田に置かれた御厨子所率分所は,有力な山徒の一人杉生房能がその管理・運営にあたっており,四宮川原率分所をはじめ山城と近江の国境にあった率分所に対しては,園城寺の支配が及んでいる。また,粟田口にあった東国口率分所が移された近江草津の率分所は,六角氏の守護請となっていた。これらの率分所は,通行する馬借や商人たちにとってその負担が大きく,障害がはなはだしかったため,しばしば土一揆などの襲撃の対象ともなった。
執筆者:

率分所 (そつぶんしょ)

率分所(りつぶんしょ)

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百科事典マイペディア 「率分所」の意味・わかりやすい解説

率分所【そつぶんしょ】

関所

率分所【りつぶんしょ】

関所

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世界大百科事典(旧版)内の率分所の言及

【京都七口関】より

…禁裏(御所)では年貢・公事の代替財源として,京都の入口に禁裏率分(そつぶん)関を設立した。これらの関所は諸官衙の長官が管理し,例えば禁裏御料所内蔵寮東口四宮川原関率分は内蔵領長官山科家,御厨子所(みずしどころ)率分は万里小路(までのこうじ)家,主殿寮(とのもりよう)率分は壬生(みぶ)家,左右衛門府率分は東坊城家・菊亭家で,このほか内侍所・御服所などの率分所があった。率分所といわれるのは,年貢・公事物以外の商品に何分の1かの税を課したからである。…

【率分所】より


[古代]
 平安時代に大蔵省に付属する機関として置かれたもので,正蔵率分所,率分堂ともいい,〈そつぶんしょ〉とも読む。その起源は明らかではないが,左中弁,大監物,大蔵省の輔,民部省の輔,主計頭が勾当(こうとう)として収納物の出納の管理にあたる。…

【関所】より

…関銭収入を目的とした関所は鎌倉後期以降,ことに増加する傾向にあった。社寺造営費捻出のために設けられた造営関や,内蔵寮などの中央官庁が通常経費の不足分を補う目的で設置した率分所(りつぶんしよ)(関)などが京都を中心とする河川の津,港湾,京都の出入口といった交通上の要衝に置かれた。造営関は寺社修造費捻出のために知行国を付与する造営料国が鎌倉中,末期にその実質的意味を失ってきたことにより,それまで港湾などの修築にあてるため徴収されてきた通行税が寺社修造費として寄進されたものである。…

※「率分所」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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