改訂新版 世界大百科事典 「人事行政」の意味・わかりやすい解説
人事行政 (じんじぎょうせい)
行政における人事管理を人事行政という。人事行政は,行政の民主的・能率的な運営を保障するために,行政組織に職務に適した職員を獲得し,これを維持・活用しようとする機能である,ということができよう。行政組織が所期の目的を達成するためには,(1)まず適正採用と適正配置が肝要である。これは任用の適材適所ということができるが,それだけでなく,職員の育成,なかんずく教育訓練(研修)が大事である。(2)さらに職員の意欲向上のため経済的,物理的,精神的に十分な勤務条件の保障が不可欠である。たとえば,経済的な面では給与制度を整備し,物理的には,職場環境を改善し,また職員を肉体的・精神的に鼓舞するために,表彰,矯正,研修,保健,レクリエーション,安全保持,厚生などが適切に行われる必要がある。(3)それに加えて,分限,懲戒,保障等の服務規律,苦情処理制度,職員団体に関する制度等が円滑に運営されることも不可欠である。これらの事がらは,第2次大戦後制定された国家公務員法や地方公務員法の中にも規定されている。
ところで,〈人事の問題は行政の核心である〉といわれるように,人々は古くから人事に関心をもってきた。しかし人事管理ないし人事行政という形で,その重要性が認識されるようになったのは,19世紀後半から20世紀にかけてである。とくにアメリカにおいては,それまでの猟官制度による行政を改革するため,資格任用制が採用され,政党による党派的任用を排除していくが,それにとどまらず,科学的管理法の影響のもとに〈科学的〉人事行政が展開されるようになった。これによって人事行政は,採用から昇進,給与等の諸問題に広がっていった。そこには人間を組織から切り離して非人格的な職位を設定し,その要求する職務の内容や責任を遂行するに適格な人間を配置するという職階制の考え方があった。しかしこの考え方は,人間は機械の部品のような存在であり,経済的要求に従って行動するという前提に立っていた。そこで機械化・合理化が進むと,逆に個性の忘却,欲求不満,労働意欲の減退などが目だつようになり,G.E.メーヨーらを中心とするホーソン工場の実験を契機として,人間の非合理的情感や欲求に注目する人間関係論が出現してきた。
今日,公務を生涯の職業とする生涯職career serviceの確立が求められているが,そのためには,任用,研修,待遇等が時代の要求に適合したものでなければならない。たとえば研修についても,現在の職務への適応性のみならず,将来担当する職務にそなえる潜在的能力の開発も重要である。また人間関係論に基づく諸方策にはさまざまな問題もあるが,集団的チーム・ワークは重要な課題である。さらに国民のニーズに敏感な民主的感覚も不可欠である。そのため,公務員,とくに圧倒的多数を占める下級公務員の〈政治的自由〉〈労働関係〉等の市民的権利にかかわる問題も現代人事行政の重要な分野である。
執筆者:君村 昌
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報