仏像を製作する造仏所の略であるが,単に仏所といった場合には,奈良時代における官営の造仏所(東大寺造仏所)や,平安時代初期のような大寺院がそれぞれ仏師をかかえていたものとは異なり,平安中期ごろから,仏師の棟梁(とうりよう)である大仏師の家や工房をさし,やがてその大仏師の指揮下にある仏師の集団とその系統をも意味するようになった。日本の職業的仏師の最初といわれる定朝やその子,また弟子が,各自こうした仏所をつくっている。定朝の子覚助に始まり,鎌倉時代に運慶,快慶をはじめ多くの名工を生んだ七条仏所(慶派),弟子の長勢から出た三条仏所(円派),覚助の子院助に発する七条大宮仏所(院派)などがそれである。いずれも仏所の所在地を示しているようであるが,こうした呼称は鎌倉時代も後半以降のことのようで,当初はこうした呼び方ではなく,それぞれの大仏師の名を冠して呼んだのではないかと推定される。
鎌倉時代半ば以後になると,これらの仏所がさらに細分化される。七条仏所が七条中,同西,同東の三仏所に分かれたのは,その一例であり,室町期に入ると京都で七条の三仏所のほか,三条,五条,万里小路(までのこうじ),高辻大宮,六条東洞院(ひがしのとういん),奈良に椿井(つばい),高間,登大路,富士山,宿院(しゆくいん)などの仏所がある。そのほかの都市でも多くの仏所がつくられている。これらのうちには奈良の宿院仏師のように,番匠,つまり大工の集団から発達し,最初は仏師の下請け的な仕事をしているうちに,仏師として独立した俗人仏所もでき,平安初期以来800年間,実生活はともかく,僧籍にあるはずの仏師の伝統が破られることとなり,やがて正統仏師とは異なった町の仏師屋へと変容してゆき,これがむしろ江戸時代の主流となってゆくのである。大仏所では11世紀中葉にはすでに120人ほどを動員できる能力があったが,鎌倉時代に入ると,さらに整備され,東大寺南大門の仁王像のごとき8mの巨像2体を,わずか72日で完成させており,その動員力と完備した組織の存在を想像させる。
→工房 →仏師
執筆者:佐藤 昭夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
仏像を制作する組織。造仏所の略称で、単に仏所といった場合、奈良時代の官営の造仏所や、平安時代初期に大寺院がそれぞれ仏師を抱えていたものとは意を異にする。平安中期以降は仏師の棟梁(とうりょう)である大(だい)仏師の家や工房を仏所といい、同時にその大仏師の指揮下にある仏師の集団とその系統をも意味するようになった。日本の職業的仏師の最初といわれる定朝(じょうちょう)やその子や弟子が、各自こうした仏所をつくっている。定朝の子覚助(かくじょ)に始まり、鎌倉時代に運慶(うんけい)・快慶(かいけい)をはじめ多くの名工を生んだ七条仏所(慶派(けいは))、弟子の長勢から出た三条仏所(円派(えんぱ))、覚助の子院助に発する七条大宮仏所(院派(いんぱ))などがあり、いずれも仏所の所在地に由来した命名である。こうした呼称は鎌倉時代後半以降で、当初はそれぞれの大仏師の名を冠してよんだものとみられる。鎌倉時代なかば以後になると、これらの仏所から分かれた仏所が乱立の状態を呈し、室町時代には、仏師は僧籍をもつというそれまでの伝統は破られて、完全な俗人の仏所までがつくられるようになった。
[佐藤昭夫]
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仏像を製作する工房,あるいはそこに所属する仏師の組織をいうが,ふつう奈良時代に設置された官営の造仏所とは区別され,平安中期以降に成立した私営のものをいう。10~11世紀に活躍した康尚(こうじょう)の事績にうかがうことができ,その頃に成立したものと思われるが,その背景には貴族たちの造仏の需要の増大がある。仏像の製作はふつう大仏師に複数の小仏師が従って行われ,仏所の構成もそれに近かったと考えられるが,仏所が成立した10世紀末頃は共同作業に適した寄木造(よせぎづくり)が発達した時期でもあり,両者はたがいに刺激しあいながら展開していったものと思われる。仏所には三条仏所・七条仏所・椿井(つばい)仏所などがあり,近世に至るまで存在した。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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