仏の足形を刻んだ石。またその足形を〈仏足跡〉という。足形は左右1対(双足)のものがほとんどであるが,まれには片方(隻足(せきそく))だけのものもある。仏陀(釈迦)が生涯を通じて諸方に遊行し,説法した足跡をとどめる意味から,仏陀の足文を石に刻んだもので,礼拝の対象とされた。インドの初期仏教においては,仏陀の形像を造ることはおそれおおいこととされ,1世紀ころまではその造像は行われなかった。そのかわり,舎利(仏陀の遺骨)を安置した仏塔,仏陀の成道をあらわす菩提樹,同じくその説法をあらわす法輪(輪宝)や宝座などが,仏陀の存在そのものを象徴する図像として用いられた。仏足石もその一つである。初期の仏足文は単に仏陀の足跡として,その中央に円い輪宝が一つだけあらわされ,いたって単純な形のものであった。しかし,時代とともに輪宝のほかに三宝章や金剛杵,あるいは双魚など種々の文様が付加され,足指それぞれの裏にまで文様を刻むようになり,仏像の足裏にまで行われるにいたった。
7世紀にインドを旅行した玄奘の《大唐西域記》には,インド各地に仏足石の存したことが記されている。一方,仏足石はインド以外の仏教圏でも,大・小乗にかかわりなく広く尊崇された。その存在はスリランカ,ミャンマー,タイなどの南方(小乗)仏教圏においても,またネパール,中国,朝鮮,日本などの大乗仏教圏においても,報告されている。日本では,奈良の薬師寺に現存する仏足石が最古のもので,その銘によると,753年(天平勝宝5)に造られたもので,その原型は唐の王玄策がインドの鹿野苑(ろくやおん)にあった仏足跡を写して長安に持ち帰ったものをさらに模写したものであるという。この銘とともに刻まれている歌は,〈仏足石歌〉として知られている。またこの仏足石はその後の日本の仏足石彫造の模範となった。仏足石は,このほかにも多数存するが,年代の明らかなものは大部分が江戸時代以降に造られたものである。なお,仏足石は明治以降も,現在にいたるまで多数造られている。
執筆者:光森 正士+岩松 浅夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
仏の三十二相の一つ,足下千輻輪相(そっかせんぷくりんそう)(仏足文。足の裏に表れる輪宝などの文様)を石に刻んだもの。無仏像時代のインドに起源をもつ。日本では黄文本実(きぶみのほんじつ)が唐から請来した図様にもとづく,753年(天平勝宝5)の薬師寺仏足石が現存最古の遺例。なお仏足文は彫刻や絵画にもしばしば表され(薬師寺金堂薬師如来像・法華寺阿弥陀如来画像など),中世には生身信仰にもとづいて通常拝することのできない立像の足裏に表された例もある。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
釈尊(しゃくそん)の足跡を印刻した石。仏脚石(ぶっきゃくせき)、仏足跡(ぶっそくせき)ともいう。仏像がつくられる以前に、インドで釈尊の表徴として礼拝(らいはい)の対象とされたが、この仏跡信仰は中国、日本に及び、またセイロン(スリランカ)、タイなど南方諸国でも各地で模刻された。通常は千輻輪相(せんぷくりんそう)(仏の足の裏にある車輪状の紋様)などの妙相を描いて刻む。日本では奈良市の薬師寺の仏足堂にあるものが最古の作(国宝)。石の側面に図の由来を記した銘文があり、傍らには仏足石歌碑(国宝)が立っている。
[森 祖道]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…仏教美術がインドのガンダーラから西域を経て,中国,日本へと東漸するに当たっては,絵画,彫刻などの仏教美術そのものの伝来はもちろんであるが,特徴的な図様のみを写し取った図像を媒介とした伝播も見逃せない。著名な一例として,今日薬師寺に伝わる仏足石がある。釈迦の足跡とされる仏足石の図様が,インドより日本に伝えられた好例である。…
…古代和歌の歌体の一つで,5・7・5・7・7・7の6句38拍からなる形式。奈良の薬師寺に仏足を刻んだ仏足石と,これを賛える仏足石歌碑とが現存する。その仏足石歌碑に刻まれた21首がこの形式の歌であるところから,この名称がつけられた。…
…東西両塔には釈迦八相像のまつられていたことが《七大寺巡礼私記》等にみえるが,その木心・塑像断片がわずかに残っている。境内の仏足石は銘から天平勝宝5年(753),画師越田安万の下絵になることが知られ,仏足石歌碑は万葉仮名で記す奈良時代の歌碑で,当時の仏足石信仰の姿を伝える貴重な遺品である。ただし江戸初期には近在の小川の橋とされていたと伝え,原所在地が本寺であったかは,明確ではない。…
※「仏足石」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新