伊勢神宮への信仰をもとに結成された信徒集団。講集団のつねとして,村落共同体に根ざす素朴な信仰形態を基盤にした集団が,伊勢参宮(伊勢参り)に重きを置く方式をとるに至ったと推定されるが,その媒介のはたらきをしたのは御師(おし)である。神宮御師の活動は平安末期から見られるが,彼らの指導・斡旋により講の結成が明確に見られたのは室町初期で,《教言卿記(のりとききようき)》応永14年(1407)3月24日条に〈神明講〉とその〈講親〉〈頭人〉が現れるのが初見であろう。その後全国各地に広がり,ほとんど村ごとに伊勢講(または神明講,参宮講)が結成されるに至った。その多くは伊勢参宮を望む者の組織で,田畑山林の共有による収入,頼母子(たのもし)式金融による運営のもとに,くじ引きにより毎年2~3人の代参者を決定して参宮させるのがふつうである。その出発にあたっては,講宿に講中が集まり,デタチ(出立ち)の祝をする。まず天照皇大神の掛軸を床の間に掲げ礼拝したのち,宴を張り,代参者に餞別を送る。講中や親戚・友人が村境まで送りに行く例も多い。神宮の地に着くと,明治初年までは神宮御師の制度があり,講ごとに御師が定まっていたので,その御師の宿坊に泊まり,御師の引導により内外両宮に参拝し,御師邸にて神楽の奉納をした。これは近世を通じてほぼ全国的な風潮であったから,一生に一度は神宮にもうでたいと念願する庶民はきわめて多かった。しかも代参者を中心に種々の民俗的慣習が保たれ,伊勢に代表される民俗的な聖地巡歴信仰がきわめて根の深いものであったことがわかる。たとえば,代参者の留守宅では,行路の安全を祈って,鎮守社への日参とか仮屋(かりや)への供饌を行い,さらにその帰着に際しては村境に出迎えてのサカムカエ(坂迎え)の宴,村に入る際の代参者の荘厳な村入り,帰着直後のハバキヌギ(西日本でドウブレ)の宴などが重要なものとして行われていた。また参宮者同士が一生涯を通じて兄弟の契りを結んで交遊を続けたことなども民俗的基盤の大きさをうかがわせるよすがとなるであろう。
→伊勢信仰
執筆者:萩原 龍夫
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伊勢信仰に基づいて組織されている講。神明講ともいう。神明とは神一般の尊称であったものが、のちには伊勢神宮をさす名称として用いられるようになった。多くの場合は参宮を目的に結成されているので、代参講となっている。ただ、鹿児島県北部にはオンジョ講と称して、老人によって構成されているものもある。こうした場合は、決まった期日に宿に集まって飲食を楽しむということが中心になるので、伊勢参りをするわけではない。
普通は戸主が講員となり、回り番などによって決めた宿に集まって、天照(あまてらす)皇太神の掛軸をかけ、礼拝をしてから飲食をする。旧暦の1、5、9月と年に3回の集まりをもつ所や、毎月あるいは隔月、さらには年1回など、地域性や時代相によって変化がみられる。そこで、くじを引いて、1人ないしは2人が、皆で積み立てている掛け金で伊勢参りに行く。春の仕事前か秋の収穫後に行くことになるが、二年参りといって年末から年始にかけて出かけるものもある。出発の際には代参者が講員を招いて宴を催す。これをデタチなどという。帰還のときも村境まで坂迎えをし、ハバキヌギとかドウブルイという宴を開いて、神札や土産(みやげ)を贈る。同行した者同士はタビヅレなどといって、その後特別に親しいつきあいをすることもある。こうしたものとは別に、伊勢神宮と直接には関係をもたない伊勢講や、神明神社の存在に注意しなくてはなるまい。
[佐々木勝]
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神明講とも。伊勢信仰にもとづき,参宮を目的に組織された団体。室町時代以降の記録に散見。伊勢神宮へ講員全体が参詣する惣参形式のものと,講員の2~3人が代表して参詣する代参形式のものとに大別される。代参の場合,出発のときに講宿でデタチという祝いをしたり,帰郷のときは村境まで出迎えて坂迎えという祝宴を開いた。各地の講と神宮参詣を媒介したのが伊勢御師(おんし)で,講ごとに師檀関係を結んだ。また,太々神楽(だいだいかぐら)を奉納する講中もあり,伊勢太々講といった。
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…三井家の江戸進出は,伊豆蔵,富山,家城,中川といったすでに江戸に進出している豪商たちと親類関係にあり,その引立てが大きな力となったことはいなめないだろう。のちに江戸で有力呉服商10人が集まって伊勢講を結んでいる。このメンバーは富山,伊豆蔵,家城,小野田,桜井,三井である。…
…東北地方の岩木山講,恐山講,出羽三山講,関東の上毛三山,武州御岳(みたけ),筑波山,三峯,大山の諸講,中部地方では,富士山の浅間(せんげん)講,飯綱(いづな),戸隠,木曾御嶽の諸講,近畿地方では大峰山の山上講,熊野三山講,中国・四国・九州では大山(だいせん),石鎚,金刀比羅,英彦(ひこ)山,阿蘇,霧島の諸講などが有名である。また著名な神社仏閣へ参る伊勢講,善光寺講,鹿島講,香取講,弥彦講,成田講,氷川(ひかわ)講,熊野講,熱田講,天神講,厳島講,住吉講,太宰府講,宇佐講などの参詣講が各地に結成され,住民の信仰心を満たしている。その方式には講の仲間全員が参加する総参り・総参(そうざん)講と,数名を代表者にえらんで行う代参講形式がみられるが,遠隔地では多く後者の形をとる。…
※「伊勢講」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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