江戸中期の儒学者。伊藤仁斎(じんさい)の長男として寛文(かんぶん)10年4月28日、京都堀河(ほりかわ)に生まれる。名は長胤(ちょういん)、字(あざな)は源蔵(げんぞう)。慥々斎(ぞうぞうさい)、東涯と号した。仁斎の4人の男子はみな家学を継いだが、長男の東涯と四男の蘭嵎(らんぐう)(才蔵)が優れ、「伊藤(堀河)の首尾蔵(しゅびぞう)」といわれた。東涯は温厚、篤実(とくじつ)、円満で、幼時より父仁斎から家学を受け、また父に伴われて京都の公卿(くげ)・文化人・富商たちの社交会(サロン)に出入りして、仁斎学の精神的基盤に親炙(しんしゃ)した。東涯は父仁斎の死(1705)によって36歳で古義堂塾を継ぎ、紀伊侯の招きを辞して幼弟の養育にあたり、父同様、生涯、町(まち)学者として仁斎学を忠実に守り、堀河塾の発展に努めた。死後、紹述(しょうじゅつ)先生と諡(おくりな)された。東涯は、父仁斎が独創的な思想家であったのに対して、博覧綿密な学究であった。湯浅常山(ゆあさじょうざん)は、『文会雑記』に「東涯の学問は仁斎に倍せり」と評している。
彼の業績は二つに分かれる。
(1)父の稿本を父の門人たちと協議して整理補正して『語孟字義(ごもうじぎ)』『論語古義』『孟子古義』『大学定本』『中庸発揮(ちゅうようはっき)』や『古学先生文集・詩集』を刊行した。また『論語古義標註(ひょうちゅう)』『語孟字義標註』『童子問標釈』『大学定本釈義』『中庸発揮標釈』などを著すとともに、古義学を布衍(ふえん)解説した『弁疑録』『古学指要』『学問関鍵(かんけん)』『訓幼字義』などを出板した。
(2)東涯の得意とする研究領域の書で、思想史として『古今学変』を著して家学の思想史的位置づけをし、制度史として『制度通』、語学研究書として『操觚字訣(そうこじけつ)』、儒学研究書として『周易経翼通解(しゅうえきけいよくつうかい)』などを著し、生涯著述に精進して、53部240余巻の書をつくり、『紹述先生文集・詩集』30巻、遺稿40巻を残した。
那波魯堂(なわろどう)は『学問源流』に、仁斎・東涯の学を仁斎派・東涯派といい、「元禄(げんろく)の中比(なかごろ)より宝永(ほうえい)を経て、正徳(しょうとく)の末に至るまで、其(その)学盛(さかん)に行はれ、世界を以(もっ)て是(これ)を計らば、十分の七と云(い)ふ程に行はる」と述べている。門下からは青木昆陽(あおきこんよう)ら多数の人材が輩出した。元文(げんぶん)元年7月17日に没した。
[石田一良 2016年4月18日]
『加藤仁平著『伊藤仁斎の学問と教育』(1940・目黒書店/復刻版・1979・第一書房)』▽『『日本思想大系33 伊藤仁斎・伊藤東涯』(1971・岩波書店)』
江戸中期の儒学者。通称と本名は源(元)蔵長胤(げんぞうちよういん),東涯のほか慥慥斎(ぞうぞうさい)と号す。父は伊藤仁斎。1705年(宝永2)仁斎の死後,古義堂第2代を継ぐ。05-20年の間に仁斎の主著の最終稿本を編集・出版した。その際,思想内容の変更に及ぶ訂正を加えており,《論語古義》や《孟子古義》の刊本はむしろ東涯の著書に近い。儒学上の東涯の思想は,仁斎に残存した朱子学的要素を一掃し,仁斎の心情的道徳論を客観秩序重視の方向に転換して,徂徠学に接近する。語学,史学,考証学,博物学など,仁斎未踏の分野も東涯によって開拓された。06-36年の門人帳には諸国・諸身分に及ぶ1900人弱の名が記されている。弟4人は高槻・福山・久留米・紀州各藩の儒者となったが,東涯は町人身分で終始した。36年所司代より帯刀許可。著書は《周易経翼通釈》《訓幼字義》《古今学変》《経史博論》《制度通》《用字格》《名物六帖》《紹述先生文集》など。東涯の原稿,日記,門人帳などは天理図書館古義堂文庫に収蔵されている。
執筆者:三宅 正彦
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1670.4.28~1736.7.17
江戸中期の儒学者。仁斎の長男で古義堂の2代目。名は長胤(ながつぐ),字は原蔵(源蔵・元蔵),東涯は号。温厚な長者で父や弟たちを支えて古義学の隆盛をたすけた。仁斎遺著の編集・刊行に努め,自身も「訓幼字義」などを刊行。中国語学・制度史・儒教史などの基礎的分野の研究にも精励。「用字格」「名物六帖」「制度通」「古今学変」などは,堅実な学風と博識を示す著で,学界に大きく貢献。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報
出典 日外アソシエーツ「367日誕生日大事典」367日誕生日大事典について 情報
…中国歴代の制度の沿革と,対応する日本の制度との関係を項目別に述べた書物。伊藤東涯撰。13巻。…
…江戸中期の儒学者,伊藤東涯の著した字書。子の伊藤東所が編成,10巻。…
…伊藤東涯の著。3巻。…
※「伊藤東涯」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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