伊藤東涯(読み)いとうとうがい

精選版 日本国語大辞典 「伊藤東涯」の意味・読み・例文・類語

いとう‐とうがい【伊藤東涯】

江戸中期の古義学派の儒者。仁斎の長男。別号慥々斎(ぞうぞうさい)。父の説を継承、発展させ、また、考証に長じて、現代でも有益な語学、制度関係の著書を残している。堀川の家塾で門弟教授。著「古学指要」「弁疑録」「制度通」「名物六帖」「操觚字訳」「秉燭譚」など。寛文一〇~元文元年(一六七〇‐一七三六

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デジタル大辞泉 「伊藤東涯」の意味・読み・例文・類語

いとう‐とうがい【伊藤東涯】

[1670~1736]江戸中期の儒学者。京都の人。仁斎の長子。名は長胤。父の学説を継承、大成させた。著「古学指要」「弁疑録」「操觚字訣そうこじけつ」など。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「伊藤東涯」の意味・わかりやすい解説

伊藤東涯
いとうとうがい
(1670―1736)

江戸中期の儒学者。伊藤仁斎(じんさい)の長男として寛文(かんぶん)10年4月28日、京都堀河(ほりかわ)に生まれる。名は長胤(ちょういん)、字(あざな)は源蔵(げんぞう)。慥々斎(ぞうぞうさい)、東涯と号した。仁斎の4人の男子はみな家学を継いだが、長男の東涯と四男の蘭嵎(らんぐう)(才蔵)が優れ、「伊藤(堀河)の首尾蔵(しゅびぞう)」といわれた。東涯は温厚、篤実(とくじつ)、円満で、幼時より父仁斎から家学を受け、また父に伴われて京都の公卿(くげ)・文化人・富商たちの社交会(サロン)に出入りして、仁斎学の精神的基盤に親炙(しんしゃ)した。東涯は父仁斎の死(1705)によって36歳で古義堂塾を継ぎ、紀伊侯の招きを辞して幼弟の養育にあたり、父同様、生涯、町(まち)学者として仁斎学を忠実に守り、堀河塾の発展に努めた。死後、紹述(しょうじゅつ)先生と諡(おくりな)された。東涯は、父仁斎が独創的な思想家であったのに対して、博覧綿密な学究であった。湯浅常山(ゆあさじょうざん)は、『文会雑記』に「東涯の学問は仁斎に倍せり」と評している。

 彼の業績は二つに分かれる。

(1)父の稿本を父の門人たちと協議して整理補正して『語孟字義(ごもうじぎ)』『論語古義』『孟子古義』『大学定本』『中庸発揮(ちゅうようはっき)』や『古学先生文集・詩集』を刊行した。また『論語古義標註(ひょうちゅう)』『語孟字義標註』『童子問標釈』『大学定本釈義』『中庸発揮標釈』などを著すとともに、古義学を布衍(ふえん)解説した『弁疑録』『古学指要』『学問関鍵(かんけん)』『訓幼字義』などを出板した。

(2)東涯の得意とする研究領域の書で、思想史として『古今学変』を著して家学の思想史的位置づけをし、制度史として『制度通』、語学研究書として『操觚字訣(そうこじけつ)』、儒学研究書として『周易経翼通解(しゅうえきけいよくつうかい)』などを著し、生涯著述に精進して、53部240余巻の書をつくり、『紹述先生文集・詩集』30巻、遺稿40巻を残した。

 那波魯堂(なわろどう)は『学問源流』に、仁斎・東涯の学を仁斎派・東涯派といい、「元禄(げんろく)の中比(なかごろ)より宝永(ほうえい)を経て、正徳(しょうとく)の末に至るまで、其(その)学盛(さかん)に行はれ、世界を以(もっ)て是(これ)を計らば、十分の七と云(い)ふ程に行はる」と述べている。門下からは青木昆陽(あおきこんよう)ら多数の人材が輩出した。元文(げんぶん)元年7月17日に没した。

石田一良 2016年4月18日]

『加藤仁平著『伊藤仁斎の学問と教育』(1940・目黒書店/復刻版・1979・第一書房)』『『日本思想大系33 伊藤仁斎・伊藤東涯』(1971・岩波書店)』


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改訂新版 世界大百科事典 「伊藤東涯」の意味・わかりやすい解説

伊藤東涯 (いとうとうがい)
生没年:1670-1736(寛文10-元文1)

江戸中期の儒学者。通称と本名は源(元)蔵長胤(げんぞうちよういん),東涯のほか慥慥斎(ぞうぞうさい)と号す。父は伊藤仁斎。1705年(宝永2)仁斎の死後,古義堂第2代を継ぐ。05-20年の間に仁斎の主著の最終稿本を編集・出版した。その際,思想内容の変更に及ぶ訂正を加えており,《論語古義》や《孟子古義》の刊本はむしろ東涯の著書に近い。儒学上の東涯の思想は,仁斎に残存した朱子学的要素を一掃し,仁斎の心情的道徳論を客観秩序重視の方向に転換して,徂徠学に接近する。語学,史学,考証学,博物学など,仁斎未踏の分野も東涯によって開拓された。06-36年の門人帳には諸国・諸身分に及ぶ1900人弱の名が記されている。弟4人は高槻・福山・久留米・紀州各藩の儒者となったが,東涯は町人身分で終始した。36年所司代より帯刀許可。著書は《周易経翼通釈》《訓幼字義》《古今学変》《経史博論》《制度通》《用字格》《名物六帖》《紹述先生文集》など。東涯の原稿,日記,門人帳などは天理図書館古義堂文庫に収蔵されている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「伊藤東涯」の意味・わかりやすい解説

伊藤東涯
いとうとうがい

[生]寛文10(1670).4.28. 京都,堀川
[没]元文1(1736).7.17. 京都
江戸時代中期の儒学者。伊藤仁斎の長子。名は長胤,諡号紹述先生。父仁斎の古義学を受継ぎ,堀川学派を充実させた。学問は博覧綿密であるが,仁斎のような独創性はなく,その学才をもっぱら父の学の整理,補成,紹述に費やす。その著述は,経学,文学から和漢の制度,文法,名物の詳に及ぶ。古義学を継承し解説した著作として,『古学指要』 (1714) ,『弁疑録』 (34) があり,ほかに仁斎の『語孟字義』を詳説した『訓幼字義』,古義学の要点を簡明にまとめた『学問関鍵』 (30) がある。その他の著作『古今学変』『復性弁』『鄒魯大旨』『経学文衡』『制度通』『古今教法沿革図』『用字格』。

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百科事典マイペディア 「伊藤東涯」の意味・わかりやすい解説

伊藤東涯【いとうとうがい】

江戸中期の儒学者。名は長胤(ながつぐ),字は原(元)蔵。伊藤仁斎の子。父の遺業を継承発展せしめ,語学,史学,考証学,博物学など仁斎が手がけなかった分野も開拓した。博覧強記で,教育・著述の功が大きい。著書《論孟古義標註》《古学指要》《弁疑録》《制度通》《紹述(しょうじゅつ)先生文集》等。
→関連項目土橋友直

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「伊藤東涯」の解説

伊藤東涯 いとう-とうがい

1670-1736 江戸時代前期-中期の儒者。
寛文10年4月28日生まれ。伊藤仁斎の長男。父の家塾古義堂をまもり,多数の門人をおしえた。父の著作の刊行につとめ,古義学を集大成した。また中国の儒教史,語学,制度を日本と対比させつつ研究,膨大(ぼうだい)な著述をなした。元文元年7月17日死去。67歳。京都出身。名は長胤(ながつぐ)。字(あざな)は源(元)蔵。別号に慥慥斎(ぞうぞうさい)。著作に「古今学変」「制度通」「操觚字訣(そうこじけつ)」など。
【格言など】口に才ある者は多く事に拙なり(「閑居筆録」)

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「伊藤東涯」の解説

伊藤東涯
いとうとうがい

1670.4.28~1736.7.17

江戸中期の儒学者。仁斎の長男で古義堂の2代目。名は長胤(ながつぐ),字は原蔵(源蔵・元蔵),東涯は号。温厚な長者で父や弟たちを支えて古義学の隆盛をたすけた。仁斎遺著の編集・刊行に努め,自身も「訓幼字義」などを刊行。中国語学・制度史・儒教史などの基礎的分野の研究にも精励。「用字格」「名物六帖」「制度通」「古今学変」などは,堅実な学風と博識を示す著で,学界に大きく貢献。

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旺文社日本史事典 三訂版 「伊藤東涯」の解説

伊藤東涯
いとうとうがい

1670〜1736
江戸中期の儒学者。堀川学派
仁斎の子。父の樹立した堀川学派を受け継ぎ,その学風を大成した。「学問は博,著述の富,海内無比」といわれ,門人は多かったが,その学説は父の継承で独創性に乏しかった。

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367日誕生日大事典 「伊藤東涯」の解説

伊藤東涯 (いとうとうがい)

生年月日:1670年4月28日
江戸時代中期の儒学者
1736年没

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世界大百科事典(旧版)内の伊藤東涯の言及

【制度通】より

…中国歴代の制度の沿革と,対応する日本の制度との関係を項目別に述べた書物。伊藤東涯撰。13巻。…

【操觚字訣】より

…江戸中期の儒学者,伊藤東涯の著した字書。子の伊藤東所が編成,10巻。…

【用字格】より

伊藤東涯の著。3巻。…

※「伊藤東涯」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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