デジタル大辞泉 「伊豆の踊子」の意味・読み・例文・類語
いずのおどりこ〔いづのをどりこ〕【伊豆の踊子】
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[補説]
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川端康成(かわばたやすなり)の初期の短編小説。1926年(大正15)1、2月『文芸時代』に発表、1927年(昭和2)金星堂刊。一高生の「私」は伊豆の旅で旅芸人の一行と道連れになった。14歳の踊子の素直な好意に、孤児である私のいじけた気持ちものびのびと解きほぐされるが、しかしやがて悲しい別れがくる。大人と子供の境目の少女の可憐(かれん)な姿態がくっきりと定着され、青春のときめきと悲哀とがみずみずしく表現されている。1918年(大正7)一高時代の川端は伊豆の旅をしたが、これはそのときの体験に基づいている。技巧の勝った新感覚派時代の作品としては珍しくすなおな筆致で、しだいに川端の代表作とみなされるようになった。1933年(昭和8)五所平之助(ごしょへいのすけ)監督、田中絹代主演で映画化(サイレント映画)されて以来、たびたび映画化され、人々の郷愁をそそる一種の古典的作品となっている。
[羽鳥徹哉 2018年8月21日]
日本映画。原作の川端康成『伊豆の踊子』を最初に映画化したのは、1933年、松竹蒲田(かまた)で五所平之助監督、田中絹代と大日方傅(おびなたでん)(1907―1980)主演の『恋の花咲く 伊豆の踊子』である。第二次世界大戦後、同原作の映画は5本つくられた。1954年(昭和29)、松竹で野村芳太郎(のむらよしたろう)監督、美空ひばりと石濱朗(いしはまあきら)(1935―2022)。1960年、松竹で川頭義郎(かわずよしろう)(1926―1972)監督、鰐淵晴子(わにぶちはるこ)(1945― )と津川雅彦(つがわまさひこ)(1940―2018)。1963年、日活で西河克己(にしかわかつみ)(1918―2010)監督、吉永小百合(よしながさゆり)(1945― )と高橋英樹(たかはしひでき)(1944― )。1967年、東宝で恩地日出夫(おんちひでお)(1933―2022)監督、内藤洋子(ないとうようこ)(1950― )と黒沢年男(くろさわとしお)(1944― )。1974年、西河克己監督、山口百恵(やまぐちももえ)(1959― )と三浦友和(みうらともかず)(1952― )。踊り子役はそれぞれの時代のアイドル・スターが起用されている。湯ヶ島、天城峠を超えて下田へと向かう旅芸人一座とともに旅をすることになった一高生が、一座の踊子と淡い恋心を抱き、交流するが、やがて下田に着くと別れが待っている。踊子の吉永小百合や山口百恵が、いつまでも手を振るラストの場面を、二度も演出した西河の腕がさえわたる。
[坂尻昌平 2018年8月21日]
『『伊豆の踊子』(新潮文庫)』
川端康成の中編小説。1926年《文芸時代》に発表,27年第2小説集《伊豆の踊子》に収められた。孤児根性でゆがみいじけた旧制第一高等学校生の主人公が,初めての伊豆の旅で美しい踊子の一行と行動をともにし,その素朴で純情な対応の人間味によって心が浄化される趣が描かれている。天城峠や湯ヶ野温泉の風景が背景となっている。青春の叙情文学としての魅力をたたえている。
執筆者:長谷川 泉
川端康成の小説を原作にした無声映画の傑作。1933年製作。監督は五所平之助,主演は田中絹代と大日方伝。伊豆天城の美しい風景のなか,抒情と感傷にあふれた映像詩として描かれている。風景,旅,淡い恋,悲しい別れといった設定がすぐれて映画的であるところから,その後5度も映画化され,踊子役は若い女優のスターへの登竜門とされた。5作の踊子役と監督は,54年版が美空ひばり・野村芳太郎(松竹),60年版が鰐淵晴子・川頭義郎(松竹),63年版が吉永小百合・西河克巳(日活),67年版が内藤洋子・恩地日出夫(東宝),74年版が山口百恵・西河克巳(ホリプロ=東宝)。74年版が最初の作品と同様,悲恋の底に芸人差別の現実を的確に描き出して,秀逸。
執筆者:山根 貞男
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