低血圧(症)(読み)ていけつあつしょう(英語表記)Hypotension

家庭医学館 「低血圧(症)」の解説

ていけつあつしょう【低血圧(症) Hypotension】

◎大きく3つに分けられる
[どんな病気か]
 いつ測っても、血圧が基準値(図「日本高血圧学会の定義」)よりも低い状態が低血圧ですが、どの数値以下を低血圧というかは、まだ、はっきりとした定義がありません。
 日本では、最高血圧が100mmHg以下、最低血圧が60mmHg以下のどちらかか、両方を示した場合に低血圧という医師が多いようです。
●低血圧の種類
 低血圧は、いろいろに分類されていますが、低血圧をおこす病気が存在しないのにおこる本態性低血圧(ほんたいせいていけつあつ)、病気が存在し、その症状の1つとしておこる症候性低血圧(しょうこうせいていけつあつ)、立った姿勢のときにおこる起立性低血圧(きりつせいていけつあつ)の3つに分けるのがわかりやすいでしょう。
本態性低血圧(ほんたいせいていけつあつ)(低血圧(ていけつあつ))
【英】Essential Hypotension
 血圧を低くする病気が存在しないのにおこっている低血圧で、単に低血圧といった場合は、この本態性低血圧をさすのがふつうです。
 低血圧になりやすい遺伝的な体質のためにおこると考えられていて、体質性低血圧(たいしつせいていけつあつ)と呼ぶこともあります。
●症状
 頭痛・頭重(ずじゅう)・めまい・立ちくらみ・肩こり・不眠・集中力の低下などの脳神経症状、動悸(どうき)・息切れ・脈が速い・不整脈などの心臓の症状、食欲不振・胃のもたれ・下痢(げり)・便秘・胸やけなどの胃腸症状など、訴える症状は人によってさまざまです。
 症状が1つだけの人もいれば、いくつかの症状を同時に訴える人もいます。また、まったく症状のない人も少なくありません。
●治療
 症状がなければ、治療の必要はありません。低血圧の人は、無病息災で長生きする人が多いのです。
 症状があって、ふだんの生活に苦痛を感じる人は、まず、生活のしかたをチェックし、つぎのような注意を守るように心がけてみましょう。
①規則正しい生活を心がける
 人間のからだは、一定のリズムで活動しています。このリズムを無視した生活をすると、症状を感じやすくなります。
 食事、起床、就寝などは、毎日、決まった時間にするようにしましょう。
 過労、寝不足も避けましょう。
②食事は、栄養豊富なものを
 食事は、たんぱく質の多い食品とビタミンミネラルの豊富に含む野菜、果物を多めにとるようにします。
 食事の回数は、1日3回が基本ですが、胃腸症状が出て一度にたくさん食べられない人は、量を減らして食事の回数を4回にするといいでしょう。
 1日2回の食事、とくに朝食を抜くのは、よくありません。
 胃腸症状に悩まされる人は、食後、30分くらい、右を下にした姿勢で横になると症状がおこりにくくなります。
③運動を心がける
 運動をすると、血液のめぐりがよくなり、気分転換にもなって症状を感じにくくなります。
 ときどき、できれば毎日、運動をするようにしましょう。運動は、自分に合うものであれば何でもいいのですが、気分転換という意味では、楽しい仲間とできるものがいいでしょう。
薬物療法
 どうしても症状に悩まされる人は、内科の医師に相談しましょう。
 抗不安薬マイナートランキライザー)や血圧上昇薬の服用で、症状がやわらぐこともあります。また、漢方薬が効果のある人もいます。
症候性低血圧(しょうこうせいていけつあつ)
【英】Symptomatic Hypotension
 病気があって、その症状としておこっている低血圧で、原因となる病気には、つぎのようなものがあります。
 血管(しんけっかん)の病気 心筋梗塞(しんきんこうそく)、心(しん)タンポナーデ、肥大型閉塞性心筋症(ひだいがたへいそくせいしんきんしょう)、不整脈(ふせいみゃく)、大動脈狹窄症(だいどうみゃくきょうさくしょう)など。
 肺の病気 肺塞栓(はいそくせん)、肺性心(はいせいしん)など。
 ホルモンの病気 甲状腺機能低下症(こうじょうせんきのうていかしょう)、アジソン病など。
 薬剤の使用 降圧薬、抗不整脈薬、抗アレルギー薬など。
 その他 がんなどの病気にともなう低栄養状態、寝たきり状態など。
●治療
 原因となる病気を治療し、治れば血圧も正常にもどります。
 しかし、低血圧が残り、血圧上昇薬の服用が必要になることもあります。
起立性低血圧(きりつせいていけつあつ)
【英】Orthostatic Hypotension
 急に立ち上がったり、長時間、立ち続けていたりしたときに、最高血圧が20mmHg以上、最低血圧が10mmHg以上低下する状態を起立性低血圧といいます。
 立っていると、地球の重力の作用で、血液は下半身のほうへ引っ張られ、上半身を流れる血液は減少するはずですが、自律神経が下半身の血管を収縮させ、上半身に十分な量の血液が流れるように調節しています。
 この調節機構に障害が生じると、めまい、立ちくらみがおこります。
 進行した動脈硬化(どうみゃくこうか)をもつお年寄りに起立性低血圧がおこると、それをきっかけとして、脳梗塞(のうこうそく)、一過性虚血性発作(いっかせいきょけつせいほっさ)、狭心症(きょうしんしょう)、心筋梗塞(しんきんこうそく)、不整脈(ふせいみゃく)などを誘発することもあります。
●原因
 糖尿病による自律神経障害、シャイ・ドレーガー症候群(しょうこうぐん)が起立性低血圧をおこす代表的な病気ですが、そのほか、脊髄癆(せきずいろう)、パーキンソン症候群(しょうこうぐん)、大動脈弁狭窄症(だいどうみゃくべんきょうさくしょう)、僧帽弁狭窄症(そうぼうべんきょうさくしょう)、アジソン病、副腎機能不全(ふくじんきのうふぜん)などの病気が原因になります。また、降圧薬や精神安定剤の服用でおこることがあります。
 このように、原因のはっきりしているものを症候性起立性低血圧(しょうこうせいきりつせいていけつあつ)、いくら調べても原因の見つからないものを特発性起立性低血圧(とくはつせいきりつせいていけつあつ)といいます。
●治療
 症候性起立性低血圧は、病気を治療するなど、原因を取り除けばおこらなくなります。
 特発性起立性低血圧は、急に立ち上がったり、長時間、立ち続けたりしないようにします。
 症状がおこったら、からだを横にして寝ていれば、たいていは数分で血圧が正常にもどり、症状も治まります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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