故なく人の住居または人の看守する邸宅,建造物,艦船に侵入する罪(刑法130条前段)。家宅侵入罪ともいう。また,広義には要求を受けてそれらの場所から退去しない不退去罪(130条後段)をも含む。刑はいずれも3年以下の懲役または10万円以下の罰金。必ずしもすべての国において犯罪類型として確立しているわけではなく,イギリスでもようやく1982年6月のエリザベス女王の寝室への不法侵入行為がきっかけとなって84年に処罰規定が新設された。
住居とは人の起臥寝食に使用され,そのための一定の設備のある場所と解されている。そしてその使用は一時的でもよく,またその場所・建物内の一室でもよいとされ,許可を得て入室した者がゆえなく別室に立ち入れば住居に侵入したことになる。ただ,〈人の住居〉でなければならず,共同生活者の侵入行為は問題とされない。もっとも家出中の息子が強盗目的で実父宅に侵入する行為や,自己名義だが別居中の妻の使用する家に妻の不貞を写真に撮る目的で侵入する行為は処罰される。邸宅とは,冬季の別荘等住居用につくられたが現に使用されていないもの,建造物とは,住居用以外の建物を示す。両者は建物の周囲の塀等に囲まれた部分をも含むが,人の看守している場合にのみ住居侵入罪の客体となる。故なく侵入するとは,正当な理由なしに立ち入ることをいう。したがって合法的な捜査に必要な立入りや,正当な争議行為の際の建造物侵入行為等は処罰されない。
侵入行為の意義をめぐっては,住居の平穏を害するような立入りとする説と,居住者の意思に反する立入りとする説が対立する。前者は住居侵入罪の保護法益を〈事実上の住居の平穏〉と解し,後者は〈住居権〉ないし〈居住者のだれを立ち入らせるかの自由〉とする。ほとんどの場合,結論に差は生じないが,平穏だが居住者の意思に反する侵入についての評価が分かれる。判例はかつて,家長たる夫の住居権を重視し,夫の留守宅でその妻と姦通した者を住居侵入罪で処断した。これに対し近時の有力な学説は,このような結論は妥当でないとし,事実上の平穏を害しない立入りである以上侵入には該当しないと主張する。賄賂を渡すという違法な目的での立入りも,それだけでは刑法130条を構成しないとされる。ただ判例は,現在も侵入の目的がいかなるものであるかを重視している。なお侵入行為は,必ずしも室内に入り込むことを要せず,例えばアパートの廊下に入れば足りる。さらに,警官に追われて住居の屋根の上を走り回る行為も侵入に該当するとした判例もある。
執筆者:前田 雅英
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正当な理由がないのに、人の住居もしくは人の看守する邸宅・建造物もしくは艦船に侵入し、または要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しない罪であり、3年以下の懲役または10万円以下の罰金に処せられる(刑法130条)。これらの未遂も処罰される(同法132条)。家宅侵入罪ともいう。本罪の保護法益につき、住居の平穏と解する説と住居権と解する説とが対立している。このうち、前説では、住居への立入りが平穏か否かを重視するのに対し、後説では、住居者の意思に反するか否かが重視される。本罪において、「住居」とは、日常生活の用に供する場所であれば足りるから、たとえば事務所、研究室、店舗などもこれにあたる(ただ、人の起臥(きが)寝食に使用する場所と解する説もある)。「邸宅」とは、住居に使用する目的でつくられた家屋をいう。なお、前述の住居や邸宅、さらに建造物には、それらの囲繞(いにょう)地も含むから、ここに侵入するのも本罪にあたる。「侵入」の意義については、本罪の保護法益につき述べたところと関連して、住居平穏説では、平穏を欠く形態で立ち入ることと解されるのに対し、住居権説では、住居権者の意思に反して立ち入ることと解される。しかし、いずれの説でも、居住者・看守者の同意(承諾)があれば本罪は成立しないものと解されているから、結論的にはそれほど違いはない。なお、デパート、ホテルのロビーのように、あらかじめ不特定・多数人が出入りすることが予定されている場合には、「推定的承諾」があるものとして違法性が阻却される。この点に関し、判例は、違法、とくに犯罪の目的で立ち入る場合は居住者・看守者の真意に反するから、本罪が成立するものと解しているが、行為者の目的だけでこれを判断する考え方には批判も多い。
[名和鐵郎]
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