最新 心理学事典 「信号検出理論」の解説
しんごうけんしゅつりろん
信号検出理論
signal detection theory
心理的連続体上の特定の値cを観察者の判断基準criterionとし,Ψ≧cであればy反応,Ψ<cであればn反応をすると考える。すると,信号が存在するSN条件で「信号あり」とy反応をするヒット率hit rate,すなわちPH=P(y|SN)は,XSN(Ψ)のうちcより右の面積に等しい。信号が存在しないN条件で「信号あり」とy反応をしてしまう誤警報率false alarm rate,すなわちPFA=P(y|N)は,XN(Ψ)のうちcより右の面積に等しい。SN条件でn反応をするミス率miss rate,すなわちPM=P(n|SN)は,1-PHに等しい。N条件でn反応をする正棄却率correct rejection rate,すなわちPCR=P(n|N)は,1-PFAに等しい。これらの関係から,二つの分布の平均間の距離はd′=Z(PH)-Z(PFA)として求められる(ここでのZ(P)は累積標準正規分布の逆関数)。したがって,d′とは,信号の有無によって確率分布の平均がどの程度異なるかを,分布の標準偏差を単位として記述するもので,検出力指標detectability indexとよばれる(図1)。
判断基準cは観察者の内的基準(y反応をするに当たり判断がどのくらい慎重か)を反映するほか,報酬価など(たとえば,誤警報に罰を与えずヒットに高報酬を与えつづける操作は,cを下げる方向に働く)で変化する。しかし,cとd′は互いに独立であるため,信号検出理論では信号に対する感度と観察者の判断基準とを独立に記述することができる。さて,XN(Ψ)とXSN(Ψ)の確率密度の比l(Ψ)=XSN(Ψ)/XN(Ψ)を信号検出理論における尤度比likelihood ratioというが,l(Ψ)=1に対応するΨの値,すなわち二つの確率密度関数の交点に対応する横軸上の値は,信号が存在しないN条件と存在するSN条件において同確率で生じる。Ψがこれより大きければ信号が存在する確率の方が高く,小さければ信号が存在しない確率の方が高い。よって,判断基準cをこの値に設定すれば最適な検出ができる。等分散モデルにおいて,β=l(c)=XSN(c)/XN(c)は観察者の判断基準がこの最適な方略からどの程度隔たるかを記述するもので,バイアスbiasの一つの指標であり,c=d′/2のときβ=1となり,尤度比が1で,正答率が最大となる。この位置から実際のcがどれだけ隔たっているかを示す値C=c-d′/2は,C=-1/2[Z(PH)+Z(PFA)]として求められ,d′と独立に計算できるバイアス指標としてよく利用される。また,logβ=d′×Cの関係がある。
ある値のd′に対し,判断基準がさまざまに変化したときに(PFA,PH)の点が2次元座標上で変化する様子を表わしたのがROC曲線receiver operating characteristic curveである(図2)。等分散モデルに従うデータならば,ROC曲線は(1,0)と(0,1)を結ぶ対角線に対して線対称となり,対角線と曲線の交点においてc=d′/2であり,正答率が最大となる。実測データがこの形状に沿わない場合,不等分散モデルを導入する必要が考えられる。不等分散モデルにおける検出力指標やバイアスの取り扱いに関しても精緻な理論がある。信号検出理論では,ここに述べた典型的なyes/no法による検出課題以外にも,強制選択法や対象同定法などさまざまな課題に対する適用方法が理論化されている。 →閾 →視覚刺激 →精神物理学 →精神物理学的測定法
〔村上 郁也〕
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