(読み)いき(英語表記)limen; threshold

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説


いき
limen; threshold

広義にはやっと意識される境界刺激のこと。厳密には刺激を量的ないし質的に変化させた場合,ある特定反応がそれとは異なった反応へと (またはある経験がそれとは異なった経験へと) 転換する,その境目の刺激尺度上の点のこと,ないしはこのような反応の転換の現象をさす。一般にはこのような転換点は,特定の反応が 50%の確率で生起する刺激量として統計的に定められる。なお刺激を小さくした場合に,反応が生じるか生じないか (知覚が生じるか生じないか) の境目に対応する刺激量を刺激閾ないし絶対閾といい,標準となる刺激をわずかに変化させた場合に,もとの標準刺激に対するものとは異なった反応が生じるか生じないか (その差異に気づくか気づかないか) の境目に対応する刺激量を弁別閾 (丁度可知差異) という。

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デジタル大辞泉の解説

いき〔ヰキ〕【×閾】

門の内と外をくぎる境目の木。また、境目。敷居。
心理学で、ある感覚や同種の刺激の相違を感知できるか否かの境目。また、その刺激量。→刺激閾(しげきいき)弁別閾(べんべついき)

いき【閾】[漢字項目]

[音]イキ(ヰキ)(呉) [訓]しきみ
内と外の境界。しきり。範囲。「閾下識閾
[補説]原義は、門の敷居

しき【×閾】

しきみ」に同じ。

しきみ【×閾】

内外の境として門や戸口などの下に敷く横木。現在の、敷居に当たる。戸閾(とじきみ)。

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百科事典マイペディアの解説

閾【いき】

刺激の連続的変化に対して,その知覚や判断のあり方が突然転換する限界。その時の刺激の最小値を閾値という。たとえば刺激の存在を初めて認知できる点は刺激閾(絶対閾),刺激の増加や減少が初めて明瞭な量的変化として感じられる点は弁別閾という。
→関連項目感覚刺激

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世界大百科事典 第2版の解説

いき【閾 threshold】

〈しきい〉ともいう。通常,反応を起こすのに最小必要限の刺激の強さをいい,その値を閾値という。閾以下の強さの刺激(閾下刺激)では反応は起こらない。たとえば,網膜に視覚感覚を起こす最小の光の強さなどであるが,刺激によって反応を起こす種類の現象一般に用いられる言葉である。閾値は刺激の物理的な性質や時間経過によっても変化する。また反応する側の種々の内部要因によっても変わる。たとえば,同じ刺激が繰り返し与えられると,閾値が上がり,反応が起こらなくなるし,また逆にその刺激が長い間与えられず,反応の動機づけ(いわゆる衝動)が高まってくると,閾値が低下する。

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大辞林 第三版の解説

いき【閾】

敷居。
ある刺激の出現・消失、または二つの同種刺激間の違いが感じられるか感じられないかの境目。また、その境目の刺激の強さ(閾値)。 → 刺激閾弁別閾

しきみ【閾】

門の内外を区画するために、門柱の間に敷く横木。蹴放し。
敷居しきい」に同じ。

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最新 心理学事典の解説

いき

threshold,limen(英),seuil(仏),Schwelle(独)

閾あるいは閾値とは,ある感覚・知覚の変化を生じさせるのに必要な最小の刺激量,あるいはある感覚・知覚の変化が生じるか生じないかの境目に当たる刺激値を指す。閾ということばは,家の内側と外側を仕切る境界である「しきい」の意味をもっており,現在でも工学や物理学の分野では「しきい値」というよび名の方が一般的である。閾と閾値を使い分ける場合もあり,ある感覚的変化が生じるかどうかの感覚次元上での境界を閾thresholdといい,閾に対応する刺激値を閾値threshold valueという。

【刺激閾と弁別閾】 閾の代表例は,刺激閾stimulus thresholdと弁別閾difference thresholdである。たとえ刺激が物理的に存在していたとしても,刺激強度が弱い場合には,その存在が検知されるとは限らない。刺激強度が増すと検知されるようになるが,その際に感覚を引き起こす最小の刺激強度を,刺激閾もしくは絶対閾absolute thresholdという。このように,刺激閾は感覚の下限に対応する刺激値である。一方,上限にあたる刺激値を刺激頂terminal threshold,terminal stimulusとよぶ。刺激強度を増していくと,ある所で強度の増加が感覚の増加を伴わなくなったり,痛覚を引き起こしたりするようになるが,刺激強度に対応する感覚強度の変化が生じる最大の刺激値を刺激頂とする。

 弁別閾は,二つの刺激をある属性に関してちょうど区別できるようになるのに必要な最小の刺激差を指す。弁別閾に対応する感覚量の違いを丁度可知差異just noticeable difference(jndとも略記)というが,現在では丁度可知差異は弁別閾と同義として用いるのが一般的となっている。二つの刺激のうち標準となる刺激に対して,他方の刺激値を増やしていったときの弁別閾を上弁別閾upper threshold,逆に減らしていったときの弁別閾を下弁別閾lower thresholdといい,通常は両者の平均をとって弁別閾とする。

 このほかにも,感覚・知覚経験として何を扱うかによって異なる閾値が定義される。たとえば,刺激の検出ができるか否かを扱う際の検出閾detection threshold,刺激光に対して色が感じられるか否かを測定する際の色覚閾color threshold,呈示された刺激がどの文字・単語などであるかを特定できるか否かを測定する認知閾recognition thresholdなど,さまざまな閾値が測定されている。いずれの場合においても,閾値が低ければ感度が高いと考えられているので,感度の指標として閾値の逆数を用いることが多い。刺激量が閾値を超えていない場合を閾下subthreshold,subliminal,閾値を超えている場合を閾上suprathresholdという。

 閾という概念は,感覚・知覚を定量的に測定し,刺激と感覚・知覚との間の数量的関係を検討する精神物理学(心理物理学)において,きわめて重要なものであった。なぜなら感覚の定量化を考えた場合に,刺激閾は感覚の下限を示し,弁別閾は感覚量の変化を表わす際の単位となると考えられたためである。このため,精神物理学の創始者であるフェヒナーFechner,G.T.によって,閾値測定のための方法として調整法,極限法,恒常法という精神物理学的測定法psychophysical methodが確立された。精神物理学的測定法は,現在でも,感覚・知覚研究だけでなく,実験心理学全般で使用される重要な方法となっている。また,閾は感覚次元において明確に特定しやすいという重要な特徴をもっており,刺激と感覚の関係から感覚メカニズムを検討しようとする際に重要な指標となってきた。こうした観点からも,閾は感覚・知覚研究において重要な役割を果たしてきた。

【心理測定関数と古典的閾理論】 閾の定義のうち,感覚の変化を生じさせる最小の刺激量という定義はわかりやすいが,この定義は,それよりも下の強度の刺激は決して検出されず,それを超えた刺激はつねに感覚を生じさせて検出される変化点があると暗に想定している(図1)。しかし,実際に刺激閾を測定してみると,閾近傍の強度の刺激に対する観察者の反応は一定ではなく,同一強度の刺激を呈示しても,それが検出される場合もあれば,検出されない場合もある。このため,刺激強度の関数として,刺激の検出率をプロットすると,滑らかに推移するS字形の曲線が得られる(図2)。一般に刺激強度の関数として,反応の出現率をプロットした曲線を心理測定関数psychometric functionとよぶ(通常は,「刺激が検出できた」,「刺激の違いが弁別できた」といった肯定反応がプロットされる)。このように閾近傍の反応は確率的に変動するため,前述のような明確な下限として閾値を決めることはできず,一般的には反応の出現率が50%となる刺激値として,閾値は定義される。以上のことから,閾値の定義としては,ある感覚的変化が生じるかどうかの境目にあたる刺激値という方が自然である。たとえば刺激閾であれば,刺激が検出できるという反応とできないという反応の境目にあたる(それぞれの反応が半々の割合で生じる)刺激値ということになる。

 心理測定関数がS字形を示す理由を,古典的閾理論では,閾の時間的変動によって説明する。すなわち,閾自体は感覚の下限であり,そこを超えるか超えないかで感覚が生じるかどうかが変わる点(知覚確率が0%から100%へと急激に変化する点)である。しかし,この値は時間的に上下する(ある時点での閾値を瞬時閾とよぶ)。このため,たとえ刺激強度が一定であったとしても,ある時にはその強度は閾値を超え検出されるが,別の時には瞬時閾の上昇のため検出されないといったことが起こる。そして,瞬時閾の分布がある強度を中心に正規分布を示すとすると,刺激強度の関数としてプロットした刺激の知覚確率(検出確率)は累積正規分布関数で表わされ,S字形を示すことになる。この古典的閾理論による説明が正しいとすると,知覚確率が50%となる刺激値は,瞬時閾の分布の平均値にあたることになる。

【高閾説と信号検出理論】 初期の精神物理学においては,瞬時閾のような閾が存在し,刺激がこの閾を超えて検出されるのは,十分な強さの刺激が呈示されたときに限られると考えられていた。このように高い閾を仮定し,ノイズが閾を超えるほど強くなることはないとする説を高閾説high threshold theoryという。しかし,ランダムに変動するノイズの中から信号を検出する過程を理論化した信号検出理論signal detection theoryの研究により,閾の存在そのものが否定されることとなる。その主張の根拠としては,たとえ被験者が十分に訓練を積んでいたとしても,刺激の出現頻度や反応に対する利得(刺激を検出できたときにどれだけ利益が得られ,検出し損ねたときにどれだけ損失が生じるか)といった感覚過程には関係のない要因によって,被験者の反応が大きく影響を受け,測定結果が変わることなどがあげられる。たとえば,刺激の検出を求める実験において,刺激強度が弱いながらも毎回刺激が呈示されることがわかっている場合とそうでない場合では,前者の方が「検出できた」という肯定反応が生じやすくなる。このように,非感覚的要因により生じる偏った反応傾向を反応バイアスresponse biasとよぶ。信号検出理論によれば,閾値測定の結果は,信号の検出しやすさと被験者によって設定される判断基準によって説明され,閾の概念が用いられることはない。ただし,その後の感覚神経過程の研究により,閾の存在を支持する証拠も報告されており,閾が感覚神経過程に普遍的に存在するか否かについては,明確な結論が出ていない。

 こうした閾の存在をめぐる議論にかかわらず,ある基準となる成績を達成するために必要な刺激量として経験的に閾を定義し,それを感度の指標として用いることの有効性には,疑問の余地がない。ただし,反応バイアスの問題を避けるため,現在,閾値測定をはじめとする感覚・知覚測定においては,強制選択法forced-choice procedureが用いられることが多くなっている。たとえば,弁別閾測定の場合であれば,2種類の刺激を異なる空間位置,あるいは時間的に前後して呈示し,どちらの刺激の方が大きいかなどを強制的に判断させる。この手続きによれば,刺激に違いがあると答えやすい,あるいは答えにくいといった被験者の反応バイアスの影響を受けることなく,閾値を測定することが可能となる。現在でも,こうした閾値測定実験により感度が推定され,感覚・知覚系の諸特性に関する検討が進められている。 →刺激 →信号検出理論 →精神物理学的測定法
〔木村 英司〕

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世界大百科事典内のの言及

【敷居】より

…建物の側回りや内部間仕切の開口部の下方に取り付けられた丈の低い横木をいう。元来は門の内外を限るもので,閾(しきみ)あるいは敷見(しきみ)といった。板戸,障子,ふすまなど引戸を開け閉めするための溝を突いたものが普通であるが,開き戸や開放の所に取り付けた溝のない無目(むめ)敷居もある。…

※「閾」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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