債権者代位権とともに債務者の財産を保全するために債権者に認められた権利で,債務者が債権者を害することを知りながら自己の財産を不当に減少する行為(これを詐害行為という)をした場合に,その行為の取消しを裁判所に請求して逸出した財産を回復することを目的とするものである。詐害行為取消権ともいう。元来,債務者は自己の財産を自由に処分しうるはずであるが,債務者の総財産が債権を満足させるに足りないような状態のもとでは,債権者の利益を考慮して債務者の財産処分の自由が制約を受けてもやむをえない。また,現在は債権を満足させるに足りるだけの財産があるとしても,債務者の処分(たとえば贈与)の結果,財産が減少して債権の弁済にとって不足をきたすことになれば,やはりその財産処分行為は債権者を害するものといわねばならない。このような行為の効力を否定して債務者財産の維持・回復を図るために認められた権利が債権者取消権である。債権は本来,債務者に対し給付を請求する権利であって,債務者財産に対しては直接の関係を有しないものであるが,債権の満足を究極的に保障しているものは債務者財産であり(その意味でこれを責任財産という),金銭債権の強制実現は責任財産への強制執行によってなされる。このように債権は,間接的にせよ責任財産に支配力を及ぼしているということができる。債権者取消権は債権と責任財産とのこのような関係を基礎として与えられた権利だといえよう。
次に債権者取消権の運用を具体的に述べよう。債権者をA,債務者をBとし,AはBに対し300万円の金銭債権を有しているとする。Bは他にめぼしい財産がないにもかかわらず,その所有する唯一の不動産(時価300万円)を第三者Cに無償で譲渡し,次いでCはこれをDに250万円で売却したとする(登記名義はB→C→Dと移転した)。この場合AはBの譲渡行為(B,C間の贈与契約)の取消しと不動産の回復を求めることになるのだが,確立された判例理論によれば,Aは転得者であるDを被告として,Dとの関係においてB→Cの譲渡行為を取り消し,かつDからBへの不動産の返還(具体的にはD→Bへの登記)を請求すべきものとされる。あるいはまた,Aは受益者であるCを被告として,Cとの関係においてB→Cの譲渡行為を取り消し,不動産の回復に代えてその価格(300万円)の賠償を求めることもできる。このように判例理論によれば,債権者は転得者を被告として不動産の回復を求めることもできれば,受益者を被告として価格による賠償を求めることもできるが,いずれの場合にも債務者は被告とはならない。取消しの効果も原告たる債権者と被告とされたDまたはCとの間でのみ生じ,債務者には取消しの効果は及ばないものとしている(相対効)。判例がこのような相対的取消しの処理をするのは,取消権の行使により第三者に影響の及ぶことを極力避けようとする配慮からである。
債権者取消権の要件は,債務者の行為が客観的に債権者を害する行為(詐害行為)であることのほかに,主観的要件として,債務者が債権者を害することを知ってその行為をなすこと(詐害性の認識),および,受益者または転得者が受益のときまたは転得のときに詐害の事実を知っていることが必要である(民法424条)。ただし,債務者の行為の詐害性の判定に関しては議論があり,相当価格をもってする不動産の売却や多数債権者のうちの一部の者にのみ弁済することが詐害行為となるか否かにつき激しく争われている。また,債権者が価格賠償を求めたり,または弁済を取り消して金銭支払を求めるような場合には,債権者が被告から金銭を受領した後,これを債務者財産中に返還することなく,債務者に対する自己の債権の弁済に充当することが判例のうえでも是認されているが,この点は他の債権者との間の公平を欠くことから問題とされている。
執筆者:奥田 昌道
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債務者の一般財産は、債権者にとって、弁済を受けるための最後のよりどころとなる。このような一般財産を保全するために、これを不当に減少させる債務者の行為(詐害(さがい)行為)の効力を否認(取消し)して、債務者の一般財産から逸出したものを取り戻すことを目的とする債権者の権利ないし制度が債権者取消権である(民法424条)。詐害行為取消権ないし廃罷訴権ともいう。債権者取消権が成立するためには、第一に、詐害行為が存在すること、すなわち、直接に財産権を目的とする法律行為が有効に成立することによって債務者の一般財産が減少し、債権者が害されること(たとえば不動産を廉価に売却したなど)が必要である。第二に、債務者および受益者または転得者が悪意であることを必要とする。取消権行使の方法は訴えによる。取消しの効果は、訴訟当事者たる債権者と受益者または転得者との間で法律行為を無効にすること(相対的無効)であり、それは総債権者のために効力を生ずる。取消権は、債権者が取消原因を覚知したときから2年、行為のときから20年を経過すると、時効によって消滅する(同法426条)。
[淡路剛久]
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