物質は電気伝導という視点からとらえると,導体,半導体と絶縁体に大別される。しかし絶縁体や比較的伝導度の小さい半導体でも,例えば可視域や赤外領域の光をあてると電気伝導度が著しく増加し電流(光電流という)が流れることがある。このような現象を光伝導という。〈こう〉伝導という場合も多い。歴史的には,光伝導の現象はすでに1870年代にセレンで見いだされていたが,その機構を理解できるようになったのは,固体物理学が誕生した1930年前後以降のことであり,さらにテレビカメラなどエレクトロニクスの分野などで積極的に実用化されるようになったのは50年代半ば以降のことである。
絶縁体や低温での半導体では,それが結晶でも非晶質でも,ふつう,電子は原子核に近い内殻や価電子帯(または局在準位)と呼ばれる各原子の低いエネルギー状態,いわば束縛状態のみを満たしていて,電気伝導は生じない。ところがこれらの物質に,それらに固有な禁止帯(または局在準位の深さ)といわれるエネルギー差より大きいエネルギーをもつ光(光子としてのエネルギーは,プランク定数をh,波長をλ,光速度をcとするとch/λで与えられるから,波長が短いほどエネルギーは大きくなる)を照射すると,電子はより高いエネルギー状態にあたる伝導帯に励起されて,自由に運動しうる伝導電子となる。半導体の場合は価電子帯に電子が抜けた穴(正孔)ができ,この正孔も電流の担い手となる。これらの伝導電子や正孔は有限の寿命をもつが,少なくともその間は伝導度は光の強度に対応して著しく増大する。ただし,上記の禁止帯のエネルギー幅(または局在準位の深さ)が有効な光の波長の最大限界値を与えるので,光伝導を利用する場合にはそれに適合した物質を選択または作製することが必要である。具体的な物質としては,紫外から可視域の中心部にかけてはCdS,CdSe,やや赤色領域まで伸びたものとしては単結晶SiやSb2S3,As2Se3,さらに改善されたものとしては非晶質a-Si:Hが開発されている。近赤外ではPbSe,PbTe,InSb,PbSnTeなどのほか,より長波長側ではCdxHg1-xTeや不純物を添加したGe(Au),Ge(Hg),さらにSi:Gaなどが用いられる。また光応答性の速いものを必要とする際には,逆方向バイアスをかけたSiのPINダイオードがあるが,応答速度にも光の波長依存性がありうることは注意しておく必要があろう。
光伝導のもっとも身近な利用例は,可視,赤外光を用いた自動扉開閉装置や警報装置であり,一方,技術的に高度なものとしては,工業用および放送用テレビカメラから,人工衛星制御装置,赤外線による地上観測装置のほかオプトエレクトロニクスの細部などにまで及んでいる。
執筆者:眞隅 泰三
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…光電効果には,固体表面から光電子が放出される外部光電効果や,原子などから光電子が放出され,イオン化する光イオン化などがある。また光照射により絶縁体や半導体中の伝導電子が増加し電気伝導度が増加する内部光電効果(光伝導ともいう),ならびに光照射により起電力を生ずる光起電力効果も光電効果の一種である。 光電効果は,量子力学誕生の端緒となった物理現象の一つとして,物理学史上,その発見の意義は大きい。…
…これを不純物伝導という。また光励起によって発生した担体によって,半導体またはイオン結晶中に生ずる電気伝導は,光伝導と呼ばれる。 イオン結晶,電解質溶液,溶融塩などにおいては,イオンの運動によって電流が運ばれる。…
…しかし絶縁体や比較的伝導度の小さい半導体でも,例えば可視域や赤外領域の光をあてると電気伝導度が著しく増加し電流(光電流という)が流れることがある。このような現象を光伝導という。〈こう〉伝導という場合も多い。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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