漁網の中央部が緻密で,外側が広めの風呂敷状の浮敷網(うきしきあみ)。〈八田網〉とも書く。棒受網の規模を拡大した多艘張網で,網の大きさは中位のもので9mほどある。この網は水深約40mの岩浜で,駆具,撒餌(まきえ),篝火(かがりび)などを使って魚群を網上に誘い,漁獲する。漁獲物はイワシを主に,アジ,ムロ,サバである。漁法は網が潮流を受けて,海中に帆を張った形になるように敷き,網上に魚群が来ると,網の曳綱を引いて狭め,タモ網ですくって漁獲する。船上に網を直接繰り揚げるときもある。八手網は室町時代末期に紀伊,摂津で起こり,しだいに関東,西南方面に伝播し,近世期には房総,肥前,天草,土佐,薩摩で盛んになった。房総へは元和(1615-24)ころ伝えられ,元禄~享保期(1688-1736)に全盛を極めた。享保期までは網1張に漁船3艘,漁夫40人ほどで,昼間操業する大八手網漁が隆盛で,それ以後は規模を縮小した小八手網漁が支配的であった。八手網は地引網とともにイワシの二大漁網として,改良揚繰網(かいりようあぐりあみ)出現まで君臨した。なお,元禄ころ全盛であった天草の八手網(逆張網)は漁船5艘,漁夫50~60人で夜間に操業する,やや規模の大きい漁業であった。
→棒受網漁業
執筆者:田島 佳也
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
網漁具の一種で、多艘(そう)浮敷網とも称すべき網漁具。すなわち2艘以上の漁船により操業される大型の張網である。八田網(はちだあみ)とも呼称されている。網は浮子方(あばかた)70メートル以上、沈子方(ちんしかた)35メートルを超える大型の網で、浅い袋状をなすようにつくられている。漁法は、2艘の網船が投網(とうもう)したのち、投錨(とうびょう)するか、航走して網型を保持し、魚群が自然に乗網するか、魚群を駆具、撒餌(まきえ)あるいは集魚灯を用いて網の上に集め、引綱により網の沈子方および両側を迅速に引き上げ、順次網を船内に繰り入れていき、魚群を魚捕部に集めて漁獲する。操業水域はごく沿岸に限定されており、イワシ、アジ、サバなどを漁獲する。
[笹川康雄・三浦汀介]
…敷網類のおもな捕獲対象となったのは浮魚であった。この網の規模もいろいろありえたであろうが,イワシ等をおもな捕獲対象とした八手(はちだ)網・四艘張(よんそうはり)網などは,江戸時代の初期から中期にかけて開発され普及したものが多いという。巻網類と同様に,当時としては沖合操業性の強い性格を持った大規模漁業が少なくなかったとみられる。…
…カレイ・ヒラメ類などの底魚や貝類,また底層・中層を群泳するアジ,タイ,イカ類,エビ類などがおもな漁獲対象である。 敷網類(敷網漁業)はあらかじめふろしきのような網を水中に沈めておき,餌・集魚灯などで網の上に魚群を誘導し,これをすくいとるもので,小さな四つ手網から各種棒受網,四艘(しそう)張網,八手(はちだ)網など大きいものまである。大きな敷網類はいずれもイワシ,アジ,サバなど群れをなして行動する魚種を対象とするが,現在,この漁具を使う漁業で最も重要なのはサンマ棒受網(棒受網漁業)である。…
※「八手網」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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