改訂新版 世界大百科事典 「八王子織物」の意味・わかりやすい解説
八王子織物 (はちおうじおりもの)
東京都八王子市を中心に生産される織物の総称。江戸時代の中期,享保(1716-36)のころ,江戸の集荷市場として縞市(しまいち)(織物市)が立ちはじめ,青梅柳条(りゆうじよう)(縞)や袴地の八王子平があらわれた。18世紀後半の天明(1781-89)から寛政(1789-1801)にかけて盛んになり,津久井の川和織(縞),五日市の黒八丈,甲斐の郡内織などが市場に出回った。織物技術の急速な進歩と品種の増加から,周辺農村に商業的農工業である養蚕,製糸,機業の3部門の地域的分業が発生し,八王子宿,北西の恩方,伊奈,五日市などが機業地域となった。以後,変遷を経て昭和初期には関東有数の機業地として,〈桑の都〉と称して栄え,中小800以上の織物工場があり各種糸織,とくに銘仙,御召,八端(はつたん)夜具地,服地,ネクタイ,マフラーなどの絹織物や人絹織物が生産された。第2次世界大戦後早々には紋ウール着尺,多摩結城(ゆうき)を中心にニット類も生産する多彩な産地となり,男物ウール着尺の主要産地であった。現在は山梨県の上野原,富士吉田地区までの機業を配下に,集散地的機能をもって活動している。
執筆者:宮坂 博文
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報