改訂新版 世界大百科事典 「八重岳」の意味・わかりやすい解説
八重岳 (やえだけ)
鹿児島県屋久島の中央山岳地帯をいう。熊毛郡屋久島町にある。九州の最高峰宮之浦岳(1936m)をはじめ,永田岳(1886m),黒味岳(1831m),投石(なげし)岳(1830m),翁(おんな)岳(1860m)など高峰が集中しており,前3者を奥岳または三岳(みたけ)ともいうが,その他も含めて八重岳と称する。また〈洋上アルプス〉の異名もある。温暖な大隅諸島に属するが,高度に従って低温となる。標高1500mくらいまでが屋久杉を含む針葉樹林帯であるが,より高くなると樹齢を重ねて萎縮し白骨化した萎縮針葉樹の森林となり,さらに1800m以上になると一面にヤクザサが茂り,ところどころにヤクシマシャクナゲ,アセビ,ビャクシンなどが小灌木状に混在するヤクザサ帯となる。また山頂部の露岩部にはビャクシン,ツツジ,リンドウなどの植物が見られ,湿原にはモウセンゴケなどが生育する。北西部を除く海岸部は古第三紀の砂岩,ケツ岩よりなる海岸段丘であるが,中央の大部分は正長石巨晶を含む黒雲母花コウ岩で構成され,これが年間数千mmに達する多量の降水で浸食されているため,とくに山頂部には奇岩,怪石が多い。宮之浦岳には山頂西側に笠石という巨岩があり,その割れ目には彦火火出見(ひこほほでみ)尊をまつる一品宝珠権現がある。また南側にもミミズ淵の岩(八鉢の岩)や食パン岩などがあり,さらに永田岳北西部では永田川の源流渓谷へ向かって急崖がそびえ立っており,山頂近くにロウソク岩の奇岩がある。そのほか各山頂とも花コウ岩の岩塊が散乱している。
登頂には北東岸の宮之浦から白谷雲水峡を経て,ウィルソン株,大王杉,夫婦杉,縄文杉などの名木を一見しながら宮之浦岳に至るルート,または東岸の安房(あんぼう)から安房林道,屋久杉ランドなどを経て各山頂に達するものなどがある。高さは日本の中部山岳より劣るものの,降水量が多く天候も変化しやすいので,登山には十分の準備が必要である。全域が霧島屋久国立公園に含まれる。
執筆者:服部 信彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報