公害による損害賠償その他をめぐる原因者と被害者との間の紛争を,行政機関が解決するための制度を定めた法律。裁判所によるのでは紛争解決に時間と費用を要するうえに,被害者が公害発生について知識をもたない不利を克服しがたいという考えから,1970年に制定された。紛争解決にあたる機関は国と都道府県におかれるが,72年の改正で,国の公害等調整委員会は,公正取引委員会などと同じく独立して権限を行使する機関となった。この制度による手続は,斡旋,調停,仲裁であり,このほか国の機関は裁定も行う。これは前3者と違い,当事者の合意がなくても紛争を処理できる手続であり,裁判に近い。ただし,賠償責任の有無を判断する責任裁定は被害者側からのみ申立てができる。責任裁定に不服のある当事者が同一事件について民事訴訟を提起しなければ,裁定は当事者の合意と同じ効力をもつ。これは司法機関の権限を侵さないため立法の際配慮された結果であるが,実際には,責任裁定の大半について民事訴訟が提起されており裁定制度は必ずしも迅速な紛争解決の役には立っていない。なお他の手続,とりわけ調停は活用されており,例えば,スパイクタイヤの禁止を求める全国各地の弁護士会から出された調停事件は,国の紛争処理機関で取り扱われ,その結果は,スパイクタイヤの粉じんの発生の防止に関する法律の制定につながった。ただし,環境基本法(1993)が制定されて,環境政策の体系が大きく変わりつつあることを考えると,今後はゴルフ場や廃棄物処理場をめぐる紛争等についても環境一般の観点からの取扱いが必要とされる。またその他の環境をめぐる紛争の多発も予測されるところから,〈公害〉紛争のみに限定した本法の制度が,大幅に見直されるべき時期に来ているといえる。
なお,地方の紛争処理機関は都道府県公害審査会であり,個別の事件ごとに担当の委員が選ばれる。また,都道府県および政令で定める市は,公害苦情相談員を置かなければならない(49条2項)。
執筆者:浅野 直人
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公害紛争について、斡旋(あっせん)、調停、仲裁および裁定の制度を設けることなどにより、紛争の迅速かつ適正な解決を図ることを目的として1970年に制定された法律。昭和45年法律第108号。同法により中央に公害等調整委員会(「中央委員会」などとよぶ)が設置され(3条)、都道府県は条例で定めるところにより都道府県公害審査会(「審査会」などとよぶ)を置くことができる(13条)。中央委員会は、人の健康または生活環境に著しい公害被害が生じ、その被害が相当多数の者に及ぶような紛争、および二つ以上の都道府県にわたり広域的な見地から解決する必要があるような紛争などを管轄し(24条1項)、審査会はそれ以外の紛争を管轄する(同2項)。
[淡路剛久]
『公害等調整委員会編『公害紛争処理白書(平成10年版)』(1998・大蔵省印刷局)』
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