(読み)シ

デジタル大辞泉 「其」の意味・読み・例文・類語

し【×其/×汝】

[代]格助詞「が」を伴って「しが」の形で用いられる》
中称指示代名詞。それ。
烏草樹さしぶの木―が下に生ひだてる葉広つ真椿」〈・下・歌謡
二人称人代名詞。おまえ。
「うつくしく―が語らへばいつしかも人となり出でて」〈・九〇四〉
反射代名詞。その者自身をさす。おのれ。
「―が身の程知らぬこそいと心憂けれ」〈落窪・一〉

そ【×其/夫】

[代]
中称の指示代名詞。それ。
受付は―を受け取り」〈独歩牛肉馬鈴薯
「妹がかど行き過ぎかねつひさかたの雨も降らぬか―をよしにせむ」〈・二六八五〉
三人称の人代名詞。その人。
「―が言ひけらく」〈土佐

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精選版 日本国語大辞典 「其」の意味・読み・例文・類語

し【其・汝・己】

  1. 〘 代名詞詞 〙
  2. ( 其 ) 他称。相手側の事物、また、すでに話題にした事物をさし示す(中称)。それ。
    1. [初出の実例]「烏草樹(さしぶ)の木 斯(シ)が下に 生ひ立てる 葉広 斎(ゆ)つ真椿 斯(シ)が花の 照り坐(いま)し 芝(シ)が葉の 広り坐(いま)すは 大君ろかも」(出典古事記(712)下・歌謡)
  3. ( 汝 ) 対称
    1. [初出の実例]「大魚(おふを)よし 鮪(しび)突く海人よ 斯(シ)が離(あ)れば うら恋(こほ)しけむ 鮪突く志毘」(出典:古事記(712)下・歌謡)
  4. ( 己 )( 反射指示 ) 自身をさす。
    1. [初出の実例]「老い人も 女童も 之(シ)が願ふ 心足らひに 撫で給ひ 治め給へば」(出典:万葉集(8C後)一八・四〇九四)

其の補助注記

専ら格助詞「が」を伴って用いられるが、「の」を伴わないところから、これを指示代名詞とせず、人代名詞に入れるのが妥当とする説もある。→


そ【其・夫】

  1. 〘 代名詞詞 〙 他称。相手側の事物・人、または話題の事物をさし示す(中称)。格助詞「の」「が」を伴う例が多い。それ。
    1. [初出の実例]「葉広 五百箇真椿(ゆつまつばき)(ソ)が葉の 広り坐し 曾(ソ)の花の 照り坐す」(出典:古事記(712)下・歌謡)
    2. 「身はいやしながら、母なん宮なりける。その母、長岡といふ所に住み給ひけり」(出典:伊勢物語(10C前)八四)
    3. 「とさといひけるところにすみけるをんな、このふねにまじれりけり。そがいひけらく」(出典:土左日記(935頃)承平五年一月二九日)
    4. 「そは心ななり。御身づからわたしたてまつりつれば、かへりなむとあらば、をくりせむかし」(出典:源氏物語(1001‐14頃)若紫)

其の語誌

上代ではまだ名詞相当の用法を持ち、格助詞「が」「の」「を」や係助詞「は」「も」等を伴って、事物、人、話題等をさすのに用いられた。中古以降、次第に「それ」にとってかわられ、中世末には「その」以外の「そ」の用法はほとんど用いられなくなる。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

普及版 字通 「其」の読み・字形・画数・意味


人名用漢字 8画

(異体字)箕
人名用漢字 14画

[字音]
[字訓] み・その

[説文解字]
[甲骨文]
[金文]

[字形] 象形
箕(み)の形で、箕の初文。其を代名詞・副詞に用いるに及んで、のち箕が作られた。〔説文〕五上に箕を正字として「簸なり」とし、古文・籀文の字形をあげる。金文には箕を簸揚する形、また女に従う形がある。終助詞として、己・記・忌と通用する。

[訓義]
1. み。
2. 代名詞として、その、それ。
3. 強意の副詞として、それ。疑問や反語にも用いる。
4. 終助詞。己・忌・記と同じように用いる。

[古辞書の訓]
名義抄〕其 イマソレ・アニナソ・トフラフ 〔字鏡集〕其 コトハ・ソノ・トフラフ・アミ(ニ)・ソレ・コト・ナリ

[声系]
〔説文〕に其声として祺・・棊・旗・(期)・稘・欺・・騏・麒・・基など十七字を収める。其は箕の形で、およそ方形のもの、その形に区画しうるものをいう。欺・面を以て人を欺く意で、よりの派生義である。

[熟語]
其者其諸・其然
[下接語]
何其・誰其・凄其・彼其

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