銀と塩素の化合物。天然に角銀鉱(かくぎんこう)として産する。硝酸銀水溶液に塩酸を加えて得られる無色の結晶。融解すると液体は黄色になる。水にほとんど不溶(0℃で水1リットルに0.70mg溶解)、エタノール(エチルアルコール)、希酸にも不溶である。アンモニア水、シアン化カリウム水溶液、チオ硫酸ナトリウム水溶液などには錯イオンをつくって溶ける。そのほか炭酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸銀などの濃水溶液にもかなり溶けるが、熱濃硝酸にはよく溶ける。感光性があり、光で分解してしだいに黒化する。このため写真用に広く用いられる。結晶は光伝導性がある。
[中原勝儼]
AgCl(143.32).天然には角銀鉱として産出する.硝酸銀の水溶液に塩化物イオンを含む水溶液を加えると,白色の沈殿として得られる.塩化ナトリウム型構造.融点455 ℃,沸点1550 ℃.密度5.56 g cm-3.溶融すると黄色の液体となり,冷却すると透明な固体となる.光伝導性がある.水にほとんど不溶.25 ℃ の飽和水溶液1.93 mg L-1.エタノール,希酸に不溶.濃塩酸,飽和塩化物水溶液には [AgCl2]- としてわずかに溶ける.アンモニア水,チオ硫酸ナトリウムおよびシアン化物水溶液に,それぞれ錯イオン [Ag(NH3)2]+,[Ag(S2O3)2]3-,[Ag(CN)2]- になって溶ける.感光性を有するので写真,測光に利用される.そのほか,銀めっき,銀-塩化銀電極,スクリーン印刷,インキ,銀電池,医療にも用いられる.[CAS 7783-90-6]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
化学式AgCl。天然には角銀鉱として存在する。可溶性の銀塩水溶液に塩化物を加えると沈殿する白色固体。融点455℃,沸点1550℃。結晶構造は岩塩型で,塩化ナトリウムと同じである。融解すると橙色になる。水に対する溶解度1.55mg/l H2O(20℃)。塩酸溶液では[AgCl2]⁻を生成して溶解度が増大する。またアンモニア水,チオ硫酸ナトリウム,シアン化カリウムの溶液にも,それぞれ錯イオンをつくって溶ける。光に対して敏感であり,黒化する。これは金属銀を生ずるためである。有機物,水の存在でこの反応は促進される。この性質は写真工業に広く利用されている。暗所で加熱し薄板に成形することができる。これは赤外領域の光に対し透明であり,しかも水に不溶なので,赤外線吸収測定用セルの窓材料に用いられる。
執筆者:水町 邦彦
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