純粋な液体の凝固は物質固有の一定温度(凝固点)で起こるが,それに他成分を加えると凝固点が降下するのが普通である。この現象を凝固点降下,融点降下depression of melting point,あるいは厳密ではないが氷点降下ともいう。これが起こるのは第二成分が主成分の液相中では溶けるが,固相中には溶けない場合である。凝固点降下の大きさは熱力学的取扱いによれば第二成分の濃度に比例する。すなわち,単位質量(1kg)の溶媒中に溶かす溶質(第二成分)の物質量をmmolとすれば,希薄な領域では次式が導かれる。
この式で,⊿Tは凝固点降下の大きさ,Mは溶媒のモル質量,Rは気体定数,Tfは純溶媒の凝固点,⊿Hfは凝固熱である。したがって,Kfは溶媒の種類によってのみ決まる定数であり,モル降下molar depression,あるいは分子降下molecular depressionと呼ばれる。この式によると,加える第二成分の物質量さえ同一であればその種類によらずに凝固点降下の大きさが同じとなる。このことは沸点上昇についても同様に成立し,束一的性質と呼ばれるゆえんである。水(Kf=1.860),ベンゼン(5.12),シクロヘキサン(20.0)などモル降下の値が既知の溶媒について凝固点降下の実験を行うと,上式より溶質のモル質量を決定することができるので,氷点法cryoscopy,freezing point methodと呼ばれ分子式決定に大きな役割を果たした時代もある。第二成分が固相にも溶け込むときには上式は成立せず,第二成分の凝固点の値により溶媒の凝固点は上昇する場合も降下する場合もある。
執筆者:菅 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
液体にほかの物質を溶解したとき,凝固点が降下する現象,あるいは効果の度合をいう.純溶媒に溶質を溶解したとき,溶液の凝固点降下度
Δ TfはΔ Tf = Kfm
で表される.ここで,mは溶質の質量モル濃度,Kf は比例定数で溶媒の種類によって決まり,溶質にはよらない.熱力学的に
Kf = RT02/(1000lf)
が導かれる.T0 は純溶媒の凝固点,lf はその溶媒1 g 当たりの融解熱である.凝固点降下は,Δ Tfの測定と既知の Kf から,溶質の分子量の決定に古くから用いられている.自然界にも広く見られる現象であるほか,路面の凍結防止にも利用される.[別用語参照]凝固点降下法
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
溶媒の凝固点よりも溶液となったときの凝固点のほうが低くなる現象。氷点降下ともいう。一般に、ある純粋な液体に不揮発性の第二の物質を溶かせば蒸気圧は低下する。すなわち、溶液の蒸気圧は各温度において溶媒の蒸気圧より低いため、溶液の凝固点が溶媒の凝固点より低くなる。
不揮発性の物質を溶かした希薄溶液(理想溶液に近い)の場合、その凝固点降下の程度はモル数に比例する。溶媒100グラムに溶質Wグラムを溶かした溶液の凝固点と純溶媒の凝固点との差をΔT、溶質の分子量をMとすれば、ΔT=kW/Mが成立する。このときkは溶媒に特有な定数で、その溶媒のモル凝固点降下という。水、酢酸、ベンゼン、ナフタレンなどを溶媒にして分子量を測定することが多い。装置としては温度を精密に測定する必要があり、ベックマン温度計が使われる。
[吉田俊久]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…この溶質の挙動は気体分子の運動と同じように考えて,アボガドロの法則を適用し,浸透圧から分子量を求めることができる。 古くから用いられている分子量の測定法に,溶液の沸点上昇と凝固点降下がある。水は0℃で凍るが,海水は0℃になっても凍結せず,また砂糖水も0℃では凍らない。…
※「凝固点降下」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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