古代~中世における官人・在地有力者の称。(1)公事に関与する官人の総称。令制における主典(さかん)以上の官人をさす場合と,地方行政機関の下級官人をさす場合とがある。前者の例としては,《李部王記》に〈百官主典以上,刀禰と称す〉とあり,また《続日本後紀》承和7年(840)5月9日条に〈右大臣藤原朝臣三守,公卿百官及び刀禰等を率い〉とみえる。後者の例としては736年(天平8)の薩摩国正税帳(しようぜいちよう)や738年の駿河国正税帳に国司史生,郡司主帳,軍団少毅などを刀禰と総称している。
(2)平安時代初・中期平安京の保(ほ)あるいは村落の有力者の称。平安京では土地の区画単位である坊をさらに四つに分けてその一区画を保と呼び,そこに保長がおかれたが,しだいに有名無実化したため,これにかわって保の有力者が刀禰に任命されるようになった。保の刀禰は検非違使(けびいし)によって任命され,非違の検察,土地の売買の保証(保証刀禰という)などにあたった。なお,11世紀半ばころから保刀禰は刀禰職(しき)として補任され,世襲されるようになる。一方,村落の刀禰(在地刀禰ともいう)としては9~11世紀に郷刀禰,村刀禰の称がみられ,土地の売買の保証,あるいは山野の領有・用益をめぐる紛争に際して境界などを勘申した。このように,京師の保刀禰と村落の刀禰の機能は類似しているが,村落の刀禰はだれによって任命されるのかつまびらかでない。村落では田堵(たと)クラスの有力者が刀禰になっている例が多いが,刀禰の地位につくことによって特別の権力を行使したとは考えられない。〈刀禰は所(ところ)を成敗する仁のつかさ也〉(《名語記(みようごき)》)といわれているように,地方行政機関の末端につながっていたことは疑いないが,郷,村などの共同体の代表者という性格の方が顕著であった。11世紀中葉以降,荘園や公領の領域支配が確立し,支配組織も整備されてくると,刀禰の機能は下司(げし)・公文(くもん)あるいは郡司・郷司などの権限に吸収され,刀禰は荘園や公領の最下級の役人としてその名をとどめるにすぎなくなる。
(3)荘官の一種。平安時代末期になると,刀禰は荘官組織の最末端にその名をとどめるか,消滅してしまうケースが多いが,神社の所領や港湾,浦などには刀禰を称する有力者が中世を通じて広範に存在した。神領では伊勢神宮領の場合が著名であるが,地方の神社にもみられ,神官を兼ねている場合も多い。港湾や浦では,刀禰職と公文職を兼帯する者がいたり,運輸管理の代官や船頭にも刀禰の称が用いられている例がある。このように,神領や港湾,浦に刀禰が後世まで広範にみられるのは,古い慣行が維持され,また私的所有が浸透しにくい地域であったことによるものと思われるが,なおつまびらかでない点も多い。
執筆者:小山 靖憲
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令制(りょうせい)官職の主典(さかん)以上の長上(ちょうじょう)官の総称。内裏(だいり)における節会(せちえ)の際、官人を召すときに用いることば。平安時代には、京職(きょうしき)の下部組織に保(ほ)刀禰があり、保内の犯罪取締りにあたった。その補任(ぶにん)は京職や検非違使(けびいし)庁によって行われる。京の市(いち)にはまた市刀禰がある。山城(やましろ)国(京都府)の要津(ようしん)である淀(よど)、山崎、大井などにも津(つ)刀禰が置かれ、使庁の検非違使が定期巡回する「津廻(つまわり)」のときには、使一行の案内役を勤め、巡察ののち、津政所(つまんどころ)で治安状態をチェックされた。このほか、平安時代、郷(ごう)に郷刀禰、村に村刀禰などの称がみえ、田畑などの土地売券(ばいけん)に証署を加えているなど、村落の有力者と考えられる。また神社にも、神職の一つとして刀禰職(しき)がある。伊勢(いせ)神宮の別宮(べつぐう)である伊雑宮(いざわのみや)刀禰や神戸(かんべ)刀禰などがそれである。
[渡辺直彦]
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…置石という津料の別称の一つ(津の石椋(いしくら)修固料の石材の徴収から起こった用語)は,その事情をよく示している。 津の管理組織の形態はさまざまであるが,1065年(治暦1)の越中国解によれば北陸道の路次の津泊の刀禰(とね)らが勝載料・勘過料を徴収したといい,彼らはそれによって港湾を共同維持していたと考えられる。このような津刀禰は,《庭訓往来》に〈淀・河尻の刀禰〉がみえるように,中世を通じて長く残った。…
※「刀禰」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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