江戸文学(読み)えどぶんがく

精選版 日本国語大辞典 「江戸文学」の意味・読み・例文・類語

えど‐ぶんがく【江戸文学】

〘名〙
江戸時代の文学。→近世文学
近世江戸の地に発達した文学。上方の文化的・経済的支配を脱し、江戸言葉成立とあいまって、江戸におこった文学で、一八世紀末頃以降の近世文学の主流をなした。→上方文学
※夏の町(1910)〈永井荷風〉一「向島と江戸文学との関係を見ると、江戸の人は時代から云へば巴里人よりももっと早くから郊外佳景に心附いてゐたのだ」

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デジタル大辞泉 「江戸文学」の意味・読み・例文・類語

えど‐ぶんがく【江戸文学】

江戸後期、明和安永ごろから幕末まで、江戸で行われた文学。天明から文政のころ最盛期を迎え、読本よみほん洒落本しゃれぼん滑稽本人情本黄表紙合巻ごうかん川柳狂歌などがあり、つうを尊び、軽快・洒脱しゃだつの傾向が強い。広義には江戸時代に行われた文学をさし、近世文学とよぶが、元禄のころを中心に栄えた前期の上方かみがた文学と、後期の江戸文学とに大別するのが普通である。→上方文学

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改訂新版 世界大百科事典 「江戸文学」の意味・わかりやすい解説

江戸文学 (えどぶんがく)

一般的には江戸時代の文学全般を指すが,狭義にはその地域的特性を考慮して,享保期(1716-36)を境とし,前半を上方(かみがた)文学,後半を江戸文学と呼ぶ。文字どおり江戸という都市を中心に栄えた文学の意である。享保改革による将軍吉宗の政策の一つに庶民教化が掲げられるが,狭義の江戸文学は,折からの文運東漸現象に即応し,吉宗の政策に呼応した公私の教導家の作品から出発した。したがって根幹は教訓であり,表現方法は俗耳に入りやすく平俗滑稽であることを旨とした。この教訓と滑稽の二本柱は以後の江戸時代を通じて変わらないが,しだいにその根幹が教訓から滑稽へ移行することを指摘できる。それが談義本から洒落本滑稽本黄表紙といった,いわゆる江戸戯作の流れである。一方同じく享保ころから生じたきわめて知的で文芸性に富む創作の一分野に,初め上方で出発した読本(よみほん)と称するものがある。中華趣味のまんえんによる中国俗語小説の日本化ともいうべきもので,上方では上田秋成などをその掉尾(とうび)とするが,その後これも江戸に移り,曲亭馬琴によって大成された。また読本の小説性と滑稽戯作の軽妙卑俗さとを兼ね合わせた試みが中本(ちゆうぼん)の世界で種々なされ,一つの型として定着したのが人情本であり,明治の写実小説へとつながる位置にある。以上はとくに俗文芸の立場での展望であるが,一方,江戸時代は漢詩文を中心とする伝統的雅文芸にリードされた時代でもある。漢詩文は江戸に荻生徂徠の登場以来,その風が爆発的に全国に広がり,それまでの上方優位の文運を急速に東に奪う口火を切った。和歌は全般に堂上派の優位は動かないが,賀茂真淵以来,万葉調の清新な歌風は,やはり江戸派が全国に先駆けたし,和歌の詠み捨てとして出発した狂歌も,天明期(1781-89)には大田南畝などを中心とする御家人グループが太平の春を謳歌して,〈目出度尽し〉の天明調狂歌(天明狂歌)が一世を風靡した。とくに地方性の強い俳諧の世界でも,享保以来,大名や富豪連の後援によって都会的に洗練された江戸風の俳諧が興り,やがて江戸座と称して軽妙な俳調をうちたてた。
戯作
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「江戸文学」の意味・わかりやすい解説

江戸文学
えどぶんがく

江戸時代の文学中,中期以後江戸でつくられたものの総称。多くは元禄期の文学を上方文学 (かみがたぶんがく) と称するのに対していう。元禄を中心とする上方文学がやがて惰性に流れて生命力を失うと,18世紀後半,文学の中心は江戸に移り,軽妙さ,渋み,粋といった江戸趣味を背景に,独特な性格をもつ江戸文学が成立した。全体に滑稽諧謔 (かいぎゃく) を好み,趣味的で,末期のものは退廃的である。狂歌に四方赤良 (よものあから) ,朱楽菅江 (あけらかんこう) ,川柳 (せんりゅう) に柄井川柳,狂文に風来山人,手柄岡持,読本に山東京伝,滝沢馬琴,洒落本に田螺 (たにし) 金魚,山東京伝,滑稽本に十返舎一九,式亭三馬,人情本に為永春水,鼻山人,草双紙 (赤本,黒本,青本,黄表紙,合巻) に恋川春町,朋誠堂喜三二,歌舞伎脚本に鶴屋南北,河竹黙阿弥,江戸小咄に烏亭焉馬 (うていえんば) らが出て,それぞれのジャンルの盛行をもたらした。ほかに雑俳も盛んであった。

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百科事典マイペディア 「江戸文学」の意味・わかりやすい解説

江戸文学【えどぶんがく】

広義には近世文学の別称。狭義には上方(かみがた)文学の対称で,近世中期以後江戸を中心に行われた狂歌川柳読(よみ)本談義本黄表紙洒落(しゃれ)本滑稽(こっけい)本人情本草双紙歌舞伎脚本などをさす。

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