割地地割(読み)わりちじわり

改訂新版 世界大百科事典 「割地地割」の意味・わかりやすい解説

割地・地割 (わりちじわり)

地割という場合には,一般には単に土地を計画的,人工的に区分し割りつけるという意味に用いられる。日本では古代班田制の時代における条里制の施行によるものや,平城京,平安京内の条坊制によるものがあり,明治以後は土地の一区画ごとに地字,地番を付けている。

 他方,ここにいう割地・地割とは,江戸時代の土地制度としての土地の定期割替制(一定期間ごとに土地を農民に割り当てなおす慣行)のことである。加賀,能登,越前,越中,越後,信濃,尾張,伊勢,丹後,常陸,岩代,土佐,伊予,豊後筑前肥前,日向,薩摩,壱岐,対馬,琉球などの各地で行われた。その内容,形式は各地で異なり,田のみを割り替える場合,田畑ともに割替えを行う場合,古田のみ行われる場合,新田のみの場合,山林・秣場(まぐさば)についても行われる場合などがあり,年限も3年,5年,10年あるいは20年などいろいろで,割替えの標準も,そのつど配当割数に増減のある場合と,配当数がつねに一定不動の場合とがある。その呼名も割地・地割のほか碁盤割(加賀,能登,越前),苗割もしくは名割,軒前割(越後),田分け(丹後),鬮持(くじもち)(宇和島),地組(筑後),門割(かどわり)制度(薩摩)など,いろいろである。

 割地発生の由来については,共同開墾地の利益の均分から発生したとする共同開墾説,水損を均分するためという水損均分説,土地の肥瘠・便否を平均し貢租の負担を公平にするために行われたとする徴税便宜説,班田制を耕地共有制とみなしてその遺制とする班田遺制説などがある。そのいずれが正しいかをにわかに決定することはできないが,ただ最後の班田遺制説は近世封建制下の割地を近世土地制度の例外的現象として把握し,総有関係あるいは共有関係として理解し考察したもので,今ではほとんど問題にならず,割地もやはり近世封建制下の産物であるとする考え方の方がむしろ定説となっている。すなわち近世封建時代はまだ農民の土地所有権が不安定な時代で,封建領主は唯一の財源ともいうべき貢租の収納に連帯責任,連帯担保の政策をとり,農民の持高の均等化を図り,耕地の等質化をねらうことが,貢租担当者である封建的自営農民の転落分解を阻止して一定の貢租を確保するうえにも便利であったので,1村ないし数村の農民の合意によって村共同体の慣行として行われていた割地制を藩の政策として採用したのである。

このように割地制には,(1)藩によって藩単位に実施された藩の制度としての割地制(藩型割地制)と,(2)農民によって村単位に実施された村の慣行としての割地制(村型割地制)とがあった。後者の村型割地制は近世初期の検地によって成立した村請制のもとで,検地帳記載の畝高と現実の畝高との相違が水害地すべりなどの自然的悪条件を主たる原因として発生したのを契機に,生産基盤である耕地の地ならしを徹底して実現するため,近世の全期にわたり,農民によって村単位にうちわのものとして創始された。したがって村型割地制は自然的悪条件が改善されないかぎり,変質あるいは廃止されることがなかった。

 それに対し前者の藩型割地制は,藩によって藩単位に実施された割地制で,これには加賀藩のように村型割地から藩型割地へという過程のなかで創始された場合と,宇和島藩のように初めから藩型割地として始められた場合とがあった。そして村型割地制が自然的条件を主たる原因として創始されたのに対し,藩型割地制は社会的条件を主たる原因として創始された。すなわち藩型割地制は藩政の一環としてとくに近世村落の成立および維持を目的として創始されたのであって,その変質あるいは廃止は時代とともに顕著となる社会経済的変化を背景として行われる藩政の転換と密接な関係があった。つまり地主小作関係の成立および展開のなかで,割地制がそのままでは存在理由を失って,宇和島藩,松山藩,今治藩のように廃止されるか,あるいはその変化に対応して加賀藩,土佐藩のように割地制創始期の実施目的および方法に新しい実施目的および方法を付加し,有効に作用させて地租改正まで継続されるか,いずれかであった。後者の場合は割替権(鬮引権)を永小作人などにも拡大することによって割地制の有効性を保持したのであるが,この制度は精農を制して惰農をつくる弊害を伴ったので,1872年(明治5)には〈不定地,年季を定め割替致し来候向は向後持主相定め申立つべきこと〉という大蔵省の布達も出て,たいていの割地は地租改正のころまでに廃絶した。そのなかで例えば長野県の千曲川と犀川との合流点地域とか石川県の柴山潟の柴山村などでは,その後も割地の慣行が残存したが,それも第2次大戦後の農地改革に伴う農村の民主化・近代化運動のなかで廃絶するに至った。
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百科事典マイペディア 「割地地割」の意味・わかりやすい解説

割地・地割【わりち・じわり】

農民の耕作地を一定年限ごとに交換する江戸時代の慣行。新田など生産力の不安定な地域に多くみられ,農民の年貢負担を均等化する役割を果たした。村落共同体の慣行と藩政策として行われる場合とがあり,田地のみの割替と,畑や山林(山林の場合は山分けという)に及ぶものがあった。
→関連項目預地

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