日本大百科全書(ニッポニカ) 「労働の二重性」の意味・わかりやすい解説
労働の二重性
ろうどうのにじゅうせい
Doppelcharakter der Arbeit ドイツ語
商品は使用価値と価値という二要因を統一したものである。こうした商品の二要因に対応して、その商品を生産する労働も具体的有用的労働と抽象的人間的労働という二つの属性をもっている。これが労働の二重性である。上着なら上着というある特定の使用価値をつくりだすためには、裁縫労働という特定の生産活動が必要であり、この活動は、目的、作業様式、対象、手段、および結果によって規定されている。こうした使用価値をつくりだす労働を具体的有用的労働という。これは人間と自然との間の質料変換の過程であって、資本主義社会に限らずどんな社会においても不可欠なものである。具体的有用的労働は、たとえば裁縫労働と織物労働というように、質的に相互に異なった生産的活動であるが、いずれも人間の脳髄、筋肉、神経、手などの生産的支出であり、人間的労働力の支出であることに変わりはない。このような労働の具体的支出の形態にはかかわりなく、量だけが問題となる生理学的意味での人間的労働力の支出が抽象的人間的労働である。これが商品の価値の実体であり、その分量が商品の価値の大きさを規定する。労働の二重性はマルクスによって初めて指摘され、「経済学を理解するための軸点」としてその意義が強調されたもので、実際にその把握は経済学の全体系を支える礎石としての意義をもっているのである。
[二瓶 敏]
『K・マルクス著『資本論』第1巻第1篇第1章(向坂逸郎訳・岩波文庫/岡崎次郎訳・大月書店・国民文庫)』