改訂新版 世界大百科事典 「動物供養」の意味・わかりやすい解説
動物供養 (どうぶつくよう)
鳥獣虫魚にも霊魂があると考え,これらを殺生捕獲した者がその霊を慰めようとして,神道もしくは仏教の儀礼によって供養を営むこと。古くは八幡宮において魚鳥を放って殺生の罪を謝した放生会(ほうじようえ)なども,神慮をなぐさめるとはいいながら直接には殺されないですむ魚鳥を喜ばせ,これによって供養する者が心を安んじるのが目的であった。現代では牛馬の屠場業者,魚市場や養鶏業の関係者など生肉,卵,鮮魚などを取り扱う人々が,この種の動物霊の供養を年々の行事として挙行する場合が多く,捕鯨・狩猟関係の人々も仲間ごとに供養碑などの建立を行っている。西日本では1000頭の猪鹿を捕らえた者は人1人を殺したことに当たるとして千匹塚を建てて供養を営む慣習があり,ことに熊をとった場合は1頭ごとに墓を設けて,子孫7代までの祟りをさけるなどの習慣もあった。関東では,安産を祈って女人講が死んだ犬のため二股の犬卒塔婆を立てて犬供養を行い,また農作物の害虫などを大量に駆除した際には,虫の霊を供養するためやはり碑を立てて記念とすることもあった(虫供養)。使用していた馬や牛が斃(たお)れたとき,その場に馬頭観音像を建立したりするのも,その霊を供養することで慰霊の心を示し,その恨みによって同じ災いが再発することを防ごうとする気持ちを示したもので,宗教者の関与もあるが,基底には,動物にも霊魂があって人と同じく怒り恨む場合があり,供養によって慰められ和らぐという信仰が働いていると認めるべきである。
執筆者:千葉 徳爾
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報