改訂新版 世界大百科事典 「動物哲学」の意味・わかりやすい解説
動物哲学 (どうぶつてつがく)
Philosophie zoologique
ラマルクの著書。進化論を体系的に述べた最初の書物。1809年刊。ちょうど半世紀後に出版されたC.ダーウィンの《種の起原》(1859)とともに,生物進化論における古典的著作である。
本書は3部からなっている。第1部は動物の分類を論じ,動物の構造が種が異なるごとに徐々に変化することから,進化論の考えを述べる。第2部は動物の生理学的機構を論じ,運動のしくみ,刺激反応機構などが扱われる。第3部は神経系を扱い,そこから感覚,さらに意思,思考,記憶といった心理現象が論じられる。本書は全体として,動物学全般を体系化し,人間論を最終目標とするものであり,狭義の生物学書にとどまらない哲学的書物である。しかし,通常言及されるのは,進化論を述べた第1部である。そこでは,生物の前進的発達傾向を基本とし,使用する器官は発達し,そうでない器官は衰えるという用不用説,環境条件が及ぼす影響,いわゆる獲得形質の遺伝などがその下で述べられている。さらに,進化の要因として,生物が自発的に環境に適応しようとする〈欲求〉もあげられている。
本書出版後の評判は悪く,ほとんど売れなかった。また,自然史博物館のメンバーが,皇帝ナポレオンの謁見を受けたとき,各人は自分の著書を献呈し,ラマルクは本書をささげたが,さんざんな扱いをされた。これはラマルクが館の中で孤立していたためであった。本書の内容は,獲得形質遺伝のように否定された説を含むことや,実証的ではなく思弁的でこじつけと思われる議論もみられることから,しばしば批判を受けてきた。にもかかわらず,生物進化の問題について包括的,体系的に論じた最初の書物として,ダーウィンの流れをくむ進化論が切り捨てた多くの問題を論じていることから,今日でも新しく示唆するものをもっている。
執筆者:横山 輝雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報