平安初期に設置された令外官(りようげのかん)の一つ。〈とくるよしかんがふるつかさ〉ともいう。8世紀後半以降,地方行政の弛緩が目だちはじめ,国司に対する監督が強化されたが,その一環として,国司交替の際に前任者が交替完了の証明のため発給して後任者に与える解由状(げゆじよう)の制度の強化がはかられた。それにともなう事務処理および解由状の勘査を行うために設置されたのが勘解由使である。設置の時期については明証を欠いているが,長官・判官が同時に任命された797年(延暦16)9月4日を創設の時期とするのが穏当である。この勘解由使は,国司交替に関して公布された法令を集成した《延暦交替式》を編纂するなど,国司交替制度の整備をはかった。しかし806年(大同1)に勘解由使はいったん廃止され,824年(天長1)に再び設置されるという経過をたどった。その間,国司交替の際に解由状を発給するか否かをめぐるトラブルが増大し,正常な交替が行われにくくなった。このため,交替引継ぎにあたって発見された租税未納や,国司管轄下の建造物・兵器その他の破損などを列記し,それについての新旧国司の言い分を記載した不与解由状を作成して太政官に上申し,勘査をうける方式が一般化しつつあった。また解由制度の対象も国司から官人全般に拡大され,あらゆる官人交替にあたって解由状の授受が行われることとなった。勘解由使が廃止されていた約20年間,これらに関する事務は太政官の弁官で処理していたが,815年(弘仁6)に不与解由状の制度がすべての官人に適用されるにおよんで,上申される不与解由状の数は膨大なものとなった。このため弁官は実務の急増に対応しきれず,勘解由使を復活して事に当たらせることとなった。復置の勘解由使は長官1人,次官2人,判官3人,主典3人を擁し,ほかに日常的な実務を行う下級官人である史生8人,書生10人を置き,《貞観交替式》《延喜交替式》を撰定して関連法規を整備する一方,不与解由状によって上申される争訟を処理した。《政事要略》に引用されて部分的に伝わっている《勘解由使勘判抄》は,勘解由使が行った不与解由状の勘査の結果を知ることのできる貴重な史料である。
→交替式
執筆者:吉岡 真之
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令外官(りょうげのかん)の一つ。内外官人の交替のとき、事務の引き継ぎに際し後任者が前任者に交付する書類を審査する官。和名で「とくるよしかんがうるつかさ」とも読む。役所は太政官(だいじょうかん)の北西隅、中務(なかつかさ)省の南にあった。その職員は長官(かみ)1人、次官(すけ)2人、判官(じょう)3人、主典(さかん)3人の四等官制をとり、その下に史生(ししょう)、使部(しぶ)などが所属する。とくに国司の交替に際し、後任者が前任者に対し、容易に解由(事務を滞りなく引き継いだことを証する文書)を与えず、前任と後任との間に、争論や不正などが生じることが多かったため、桓武(かんむ)天皇の797年(延暦16)ころ、この使を置いてその処理にあたらせた。ついで翌798年使職員の待遇を定めたが、平城(へいぜい)天皇の806年(大同1)に至り一時廃止。その後、淳和(じゅんな)天皇の824年(天長1)に復活。これ以後は常置の官として存続するが、しだいに有名無実化した。延暦(えんりゃく)・貞観(じょうがん)・延喜(えんぎ)3代の『交替式(こうたいしき)』は、内外官の交替に関する法令格式(きゃくしき)を集成したものである。
[渡辺直彦]
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官人の交替事務を監査する令外官(りょうげのかん)。797年(延暦16)設置,806年(大同元)に廃止され,824年(天長元)再置。長官1人・次官2人・判官3人・主典3人の四等官構成。当初は奈良後期の交替政策の整備再編をめざし,「延暦交替式」の編纂を主務としたとする説が強い。再置後は,解由制が内外官に拡大された事態を前提とし,不与(ふよ)解由状の審査(勘判)を主要な任務とした。一方「貞観交替式」「延喜交替式」を編纂し,交替関係の法的整備も進めた。「勘解由使勘判抄」は勘解由使勘判の実態を示す。945年(天慶8)以後は,主計・主税2寮の勘文と並んで勘解由使勘文が受領功過定(ずりょうこうかさだめ)に利用され,交替監査よりも功過判定へと機能を傾斜させた。
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…平安時代初期,内外官の交替に関する規則を集成した法規集。《延暦交替式》《貞観交替式》《延喜交替式》の3種があり,いずれも勘解由使(かげゆし)によって編纂された。奈良時代には,外官(地方官)たる国司の交替に際し,後任の国司が前任の国司から事務引継ぎを受けるに当たって,一種の会計監査を行い,前任国司は解由(げゆ)という監査済の証明書をもらって都に帰任するしくみになっていた。…
※「勘解由使」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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