岡本綺堂作。全68話。第1話(1917年1月《文芸俱楽部》)から第68話(1936年10月《講談俱楽部》)まで,断続的だが20年間にわたって執筆された。若い新聞記者が岡引あがりの半七老人から昔の捕物話を聴くというスタイルで,日清戦争後の東京の風景を通して,自然に旧江戸の世界がクローズアップされるようにくふうされている。なぞ解きのおもしろさは稀薄だが,巧妙な語り口によって鮮やかによみがえってくる江戸の人々の生活や市井の風景に最大の魅力がある。〈季の文学〉と称されるように,季節感の豊かな風物詩といってよい。その後のあらゆる捕物小説の原点であるとともに,文学的には依然としてその頂点にある。
執筆者:山田 有策
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岡本綺堂(きどう)の読み物小説。1917年(大正6)1月『文芸倶楽部(くらぶ)』に発表した『お文(ふみ)の魂(たましい)』に始まり、36年(昭和11)までの約20年間に各種雑誌に発表。総計68編。明治時代の東京に住む、もと岡引(おかっぴ)きの半七老人が、若い新聞記者に語って聞かせる形式をとり、旧幕時代の捕物話が、一話完結の形で展開する。物語の背景となる江戸の四季折々の風物や世態人情が、巧妙な説話体によって生き生きと描かれて、広く愛読された。ドイルの『ホームズ探偵談』の影響を受けて生まれたものだが、時代小説の一分野をなす「捕物帳」小説の元祖的な名作とされている。
[武蔵野次郎]
『『半七捕物帳』全六冊(旺文社文庫)』
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…これに反して日本独自の特色を生かしたのが時代推理小説,すなわち〈捕物帳〉である。シリーズとしての発表形式は前述のとおり《シャーロック・ホームズ》に負うところが多いが,過去の時代の雰囲気,考証などの点では,このジャンルの創始者,岡本綺堂作の《半七捕物帳》(第1作は1917年1月《文芸俱楽部》に発表)が最初にして最高の模範例となっている。以後,野村胡堂(銭形平次),佐々木味津三(右門),横溝正史(人形佐七)など数多くの作家が試みたが,推理小説の枠内に収まりきらない作品も多くある。…
※「半七捕物帳」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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