南方仏教(読み)ナンポウブッキョウ

デジタル大辞泉 「南方仏教」の意味・読み・例文・類語

なんぽう‐ぶっきょう〔ナンパウブツケウ〕【南方仏教】

インド中部に起こった仏教が、南方に伝わったもの。スリランカ・ミャンマー・タイ・カンボジアラオスで信仰され、釈迦しゃかの教えに忠実で、戒律が厳しい。→北方仏教

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精選版 日本国語大辞典 「南方仏教」の意味・読み・例文・類語

なんぽう‐ぶっきょうナンパウブッケウ【南方仏教】

  1. 〘 名詞 〙 東南アジア地域の仏教。パーリ語聖典を伝承し、戒律を重んずるスリランカ・ミャンマー・タイ・カンボジア・ラオスの小乗仏教をさすことが多いが、広義には、中国仏教系統を引くベトナムの仏教や、過去に栄えたジャワスマトラなどをも含む。

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改訂新版 世界大百科事典 「南方仏教」の意味・わかりやすい解説

南方仏教 (なんぽうぶっきょう)

スリランカ(セイロン),ミャンマー,タイ,ラオス,カンボジアなどの南方諸国に行われている仏教をいう。インドから西域地方を経て,中国,日本などの北方に伝わった仏教を〈北伝仏教〉あるいは〈北方仏教〉というのに対して,この呼び方を用いる。上座部の仏教が伝えられたので〈南方上座部仏教〉または〈テーラバーダ〉とも呼ばれる。スリランカへの初伝は,前3世紀ころアショーカ王の子マヒンダと娘サンガミッターによって行われた。当時の王デーバーナンピア・ティッサによってアヌラーダプラに建てられた大寺(だいじ)(マハー・ビハーラ)が南方仏教の拠点となった。以後大乗仏教をも兼学する無畏山(むいさん)寺(アバヤギリ・ビハーラ)との抗争やイスラムの侵入,またポルトガル,オランダ,イギリスの支配によるキリスト教との対決の時代を経て今日にいたっている。

 ミャンマー,タイ,カンボジアへはヒンドゥー教や大乗仏教も伝えられたが,結局は上座部系の仏教が受け入れられた。スリランカ上座部と密接な関係を保ちつつ,現在国教(とくにタイ)あるいはそれに準ずる地位を得ている。南方仏教の共通した特徴は,(1)パーリ語で書かれた経・律・論の三蔵を所依の経典とし,(2)信仰の対象はゴータマ・ブッダのみであり,(3)戒律を重んずる出家者中心の教団組織を形成しているところにある。持戒(じかい)の厳しい比丘(びく)は,社会的に大きな尊敬を受けており,とくにタイでは男子は一生に一度は僧にならなければならない。
北伝仏教
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「南方仏教」の意味・わかりやすい解説

南方仏教
なんぽうぶっきょう

アショーカ王の子マヒンダによってインドからセイロン (現スリランカ) に伝えられ,次いで 11世紀にセイロンからビルマ (現ミャンマー) に伝えられ,次にタイ,カンボジアなどに広がった上座部系統の仏教をいう。南方仏教は原始仏教の直系を伝える仏教であり,原始仏教の戒律を忠実に実行する点にその特徴がある。南方仏教の学者の著作は多いが,特に5世紀のブッダゴーサの『清浄道論』 Visuddhimaggaは名著といわれ,彼によって上座部の教学が集大成された。さらに 12世紀頃のアヌルッダの『摂阿毘達磨義論』 Abhidhammatthasaṅgahaは上座部の教理の綱要書として珍重される。総体的にみると上座部の教学では『阿含経』より一歩進んだ教理が現れており,特に心理説の研究には注目すべき発達がある。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「南方仏教」の解説

南方仏教
なんぽうぶっきょう

南伝仏教とも。仏教用語としてのパーリ語を共有することから,パーリ仏教ともいう。北伝仏教に対する。アショーカ王(阿育王)以後,スリランカ,ミャンマー,タイ,ラオスなどの諸地域に流布した。上座部系の伝統を継承して戒律を厳守し,大乗仏教の多仏や多菩薩を認めず,小乗仏教の特質を維持している。しかしカンボジア,ベトナム,マレーシア,シンガポール,インドネシアなどには大乗仏教も伝わっており,これらを含めてよぶこともある。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「南方仏教」の解説

南方仏教(なんぽうぶっきょう)

上座(じょうざ)仏教

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世界大百科事典(旧版)内の南方仏教の言及

【仏音】より

…5世紀ころの南方仏教の学僧。生没年不詳。…

【ベーサカ祭】より

…南方仏教で,釈迦の誕生,成道(じようどう),入滅を祝って行われる祭り。中国や朝鮮,日本などの北伝(大乗)仏教では,釈迦の誕生,成道,入滅はそれぞれ別の日のこととされ,それらの日ごとに祝われる(たとえば,4月8日の降誕会(ごうたんえ)または灌仏会(かんぶつえ),12月8日の成道会(じようどうえ),2月15日の涅槃会(ねはんえ)など)。…

【北伝仏教】より

…チベット,中国,朝鮮,日本などに行われている仏教の総称。〈北伝仏教〉あるいは〈北方仏教〉,およびこれに対する〈南伝仏教〉または〈南方仏教〉という呼称は,もとはヨーロッパの仏教学者によって与えられたものである。近代学としての仏教学はインド学と重なって19世紀に始められたが,西欧の学者は,スリランカ(セイロン)で得たパーリ語で著された仏教典籍に基づく仏教を〈Southern Buddhism〉と呼び,ネパールで入手したサンスクリット(あるいは仏教梵語)で書かれた仏典に基づく仏教を〈Northern Buddhism〉と称した。…

※「南方仏教」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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