改訂新版 世界大百科事典 「反射的利益」の意味・わかりやすい解説
反射的利益 (はんしゃてきりえき)
公権に対する概念で,公権の場合は権利として自己のために直接一定の利益を法律上主張することが認められるのに対し,反射的利益とは,とりわけ公益目的実現のため,制定法が他者に対して規制している結果,つまり,その規制の反射として,利益を受けるのにとどまることをいう。したがって,それは,法律上の保護を受けるものではなく,反射的利益の侵害があっても法律上の救済手段はない。
具体的には,利益を侵害する行為が公権力の行使に当たる場合,その排除を求めても,それが反射的利益であるときには原告適格あるいは不服申立適格が否定される。行政法学上に立てられた概念であるが,最高裁判所も不当表示に関するいわゆる主婦連ジュース訴訟事件でこれを認め,〈不当景品類及び不当表示防止法〉の規定により〈一般消費者が受ける利益は,公正取引委員会による同法の適正な運用によって実現されるべき公益の保護を通じ国民一般が共通してもつにいたる抽象的・平均的・一般的な利益,換言すれば同法の規定目的である公益の保護の結果として生ずる反射的利益ないし事実上の利益〉であるとして,消費者の不服申立適格を否定している。また,文化財保護の見地からなされる文化財の指定(史跡指定)によって得られる文化財研究者の利益も反射的利益とされ,指定解除処分を争う原告適格を否定する判例もある。しかし,何が反射的利益にとどまるかを判定する基準は明確でない。また,これを広く解すると被害者の救済の道をせばめるとともに,違法行政の是正の機会をなくすことになる。そこで,具体的法規の解釈を通じて,反射的利益の範囲をせばめる傾向がある。たとえば,最高裁判所は公衆浴場の許可に対する取消訴訟につき,既存の浴場主の原告適格を認め,また,判例は一般に,建築確認処分の取消訴訟の原告適格を隣人にも認めている。
執筆者:塩野 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報