一般に、その持分(もちぶん)(株式会社では株式)が1人の手に保有される会社。広義では、数人の社員(株主)がいても、そのうちの1人が大部分の株式を所有し、ほかは会社の設立や存続の形式要件を満たすために藁(わら)人形的に存在するにすぎない会社も含む。日本では狭義の一人会社として設立することは、従来の商法においては、設立の際には発起人が7人以上必要であるとの規定があり、認められていなかったが、1990年(平成2)の商法改正によって同規定が廃止され、可能となった。同趣旨は2005年制定の会社法においても受け継がれている。また、会社成立後も社員が1人となれば解散する必要があるかについては、商法時代には合名会社と合資会社においては社員が1人となったことが解散事由としてあげられる一方で、株式会社でのみ一人会社の存続が認められているにすぎなかった。しかし、会社法の制定によって、合名会社・合同会社・株式会社それぞれについて、一人会社として存続することが認められた。なお、合資会社の社員が1人となったことは会社の解散原因とはならないが、その残余の社員が無限責任社員であるか有限責任社員であるかによって、合名会社あるいは合同会社として存続する旨の定款変更がなされたものとみなされる(会社法471条、641条、639条)。一人会社概念を認める理論的根拠としては、全株式が1人に帰属しても、その譲渡により複数の株主に保有される可能性があることにある(潜在的社団性)。また、一人会社概念を認める実際的必要性としては、親会社が全株式を所有する子会社のような一人会社を認めることにより、コンツェルンを形成することにある。とくに、1999年の商法改正によって導入された株式交換や株式移転を用いて創設された完全親子会社関係を説明するために有用である。なお、広義の一人会社は実質的には個人企業であり、本来無限責任を負うべき個人企業が、株主の有限責任制度を利用する手段として濫用されやすい点にも留意する必要がある。
[戸田修三・福原紀彦]
『酒巻俊之著『一人会社と会社設立の法規制』(2005・成文堂)』
会社の構成員である社員が1人の会社。親子会社において子会社が一人会社の場合を完全子会社という。形式的にも実質的にも1人の社員しかいない会社(狭義の一人会社)以外に,形式的には複数の社員がいるが実質的には1人と解される場合を含むこともある(広義の一人会社)。合名会社と合資会社において社員が1人となることは法定の会社解散事由であり(商法94条4号,147条),狭義の一人会社は認められない。これに対して,株式会社と有限会社については,1990年の商法,有限会社法の改正により,一人会社としての設立および存続が認められることとなった(商法165条,有限会社法69条1項の改正)。
一人株式会社・有限会社は,株式・持分譲渡の結果,一時的,偶然的にも生じうるが,会社が営業の一部門を分離独立させて新たに完全子会社をつくるときや,会社が既存の会社の株式を買い取り完全子会社とするときなどのように,会社が企業経営上の合理的判断にもとづき意図的に一人会社をつくって,これを継続的に利用する場合が多い。97年独占禁止法改正により,持株会社が原則として認められたが(独禁法9条の改正),持株会社形態において一人会社が利用されることとなろう。さらに,有限責任の特権を利用するために,個人企業主がこれを利用する場合も多い(個人企業の法人成り)。
一人会社では,株主・社員が1人であるという特殊性から,会社の内部的組織規定(株主総会の招集等)の弾力的運用が必要である。一人の株主・社員は完全に経営を支配することができ,会社債権者の犠牲において株主・社員(親会社)が不当の利益を得る危険がある(有限責任の濫用)。子会社債権者保護のためには企業結合法を整備する必要がある。また,中小会社については,法人格否認の法理の適用がしばしば問題となる。
→親会社・子会社
執筆者:森本 滋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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