吉野拾遺(読み)ヨシノシュウイ

デジタル大辞泉 「吉野拾遺」の意味・読み・例文・類語

よしのしゅうい〔よしのシフヰ〕【吉野拾遺】

室町時代説話集。2巻または3巻。作者成立年ともに未詳。延元元年=建武3年(1336)から正平13年=延文3年(1358)に至る23年間の、南朝関係の人物逸話を集めたもの。

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精選版 日本国語大辞典 「吉野拾遺」の意味・読み・例文・類語

よしのしゅういよしのシフヰ【吉野拾遺】

  1. 南北朝時代から室町時代の説話集。二巻あるいは三、四巻。作者未詳。奥書によると正平一三年(一三五八)の成立であるが、元中元年(一三八四)以降成立の説もある。二巻本は三五話、三、四巻本は六四話。三巻以後のものは室町後期に加えられたと推定される。延元元年(一三三六)から正平一三年に至る二三年間の吉野朝廷を中心とした説話や逸話、天皇の歌、戦いの話などが集められている。

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改訂新版 世界大百科事典 「吉野拾遺」の意味・わかりやすい解説

吉野拾遺 (よしのしゅうい)

南北朝期の説話集。奥書に〈正平つちのえいぬのとしのはる〉(1358・正平13),〈隠士松翁〉とあるが,成立,作者ともに未詳。伝本に2巻本と4巻本(3冊と4冊,1687刊,内題《芳野拾遺物語》)がある。4巻本の立てた章段,目録では,2巻本は35話であり,4巻本は後代の追補とみられる29話が加わり,計64話である。2巻本は南北朝後期,追補部は1552年(天文21)までに成立したとみられ,後醍醐天皇の吉野遷幸から当代後村上天皇時代にかけて,作者が見聞し体験した逸事が集められている。歌物語が多いが,ほかに〈高師直弁の内侍を奪ふ事〉〈伊賀の局化物にあふ事〉〈くま王発心の事〉などがあって,山深い吉野行宮の内外の,優雅,哀傷,奇瑞,奇談,怪異の物語集となっている。なお奥書にみる作者隠士松翁については諸説(侍従忠房朝臣,兼好法師の弟子の命松丸など)があるが,吉野朝ゆかりの人とする以外,全く不明である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「吉野拾遺」の意味・わかりやすい解説

吉野拾遺
よしのしゅうい

南朝関係説話を集めた中世後期の説話集。跋(ばつ)文には「正平(しょうへい)つちのえいぬのとし」(1358)、「松翁」なる者が著した旨を記す。この松翁については、侍従忠房(ただふさ)説、吉田兼好の弟子命松丸(めいしょうまる)説など諸説があるが、いずれも確証はない。この跋文自体を虚構とみる説も有力である。作者はただ、南朝びいきの教養ある隠士で、兼好の影響下にある人物とのみ推定される。成立年も確定できないが、室町時代の説話集『塵塚(ちりづか)物語』との関係から、1552年(天文21)以前であることは確かである。諸本には、35話を収める二巻本のほか後人がこれに29話を増補して成立したと考えられる三巻本、および四巻本(内容は三巻本に同じ)がある。内容は、巻頭に後醍醐(ごだいご)帝関係の和歌説話を配し、以下、神仏霊験説話、遁世(とんせい)説話、怪異説話、武勇説話、悲恋説話、誹諧(はいかい)説話など多岐にわたる。これらには『太平記』『神皇正統記(じんのうしょうとうき)』『徒然草』などをふまえつつ、『撰集抄(せんじゅうしょう)』などにみられるのと同様な、創作説話的方法で形成されたとみられるものがあり、注目される。

[木下資一]

『『説話文学必携』(1976・東京美術)』

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百科事典マイペディア 「吉野拾遺」の意味・わかりやすい解説

吉野拾遺【よしのしゅうい】

南北朝時代の説話集。2巻または4巻。奥書にある作者松翁は未詳の人物,また1358年成立とあるのも疑問。あるいは室町時代の偽作かとも。後醍醐・後村上両天皇時代の南朝の人びとの逸話を記したもので,歌話,恋愛譚,怪異談,遁世談,霊験談などが集められている。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「吉野拾遺」の意味・わかりやすい解説

吉野拾遺
よしのしゅうい

室町時代の説話集。作者未詳。2巻 (4巻の増補本もある) 。作者については,奥書にある松翁を藤原吉房,兼好の弟子命松丸,足利尊氏の侍童命鶴丸などとする諸説がある。正平 13=延文3 (1358) 年頃成ると奥書にあるが疑わしく,室町時代に『神皇正統記』『太平記』などを材料として偽作したものかという。後醍醐,後村上両帝時代の南朝君臣の逸話などを集めたもの。

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