吸収スペクトル(読み)キュウシュウスペクトル

デジタル大辞泉 「吸収スペクトル」の意味・読み・例文・類語

きゅうしゅう‐スペクトル〔キフシウ‐〕【吸収スペクトル】

光線など、連続したスペクトルをもつ電磁波物質に当たったときに、その物質特有の波長範囲の部分が選択的に吸収されて暗黒となったスペクトル。物質の構造決定や分析利用

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精選版 日本国語大辞典 「吸収スペクトル」の意味・読み・例文・類語

きゅうしゅう‐スペクトルキフシウ‥【吸収スペクトル】

  1. 〘 名詞 〙 ( スペクトルは[フランス語] spectre ) 連続スペクトルに現われる暗黒部。物質中を通過する光またはX線が、物質特有の吸収を受けて生ずる。吸収部分の形状によって、吸収線スペクトル、吸収バンドスペクトル、吸収連続スペクトルに分けられる。その吸収された光の波長を測って、原子分子、物質の構造決定や、定性分析定量分析天体の物質構成の決定などに応用される。〔稿本化学語彙(1900)〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「吸収スペクトル」の意味・わかりやすい解説

吸収スペクトル
きゅうしゅうすぺくとる

連続スペクトルをもつ光または放射線が物体を通過する際、この物体による吸収のために連続スペクトルの各所に暗黒な部分が現れる。これを一般に吸収スペクトルという。フラウンホーファーは太陽のスペクトルを分光器を用いて観測し576本もの黒線を発見し、それらのおもな線に波長の長いほう(赤いほう)から順にA、B、Cといった符号をつけた。これがフラウンホーファー線であるが、それが太陽スペクトルの吸収線であることは、のちにキルヒホッフによって明らかにされた。たとえばD線はナトリウム原子による吸収線である。ナトリウムや水銀蒸気などでは容易に線状の吸収スペクトルが観察できる。しかし一般には原子吸収スペクトルはきわめて先鋭なので、十分先鋭な単色光源(ホローカソード管など)を用いなければ、原子蒸気による吸収を観測することはできない。原子吸収の測定により化学分析を行う方法を原子吸光分析法といい、広く用いられている。

 分子による吸収スペクトルは簡単な気体分子などの場合には線構造を示すが、複雑な分子では線状構造の認めがたい帯スペクトルを与える。液体固体では明瞭(めいりょう)には分解しない帯スペクトルを与える。吸収スペクトルは物質の化学構造によって決まる。すなわち、分子内の振動、回転などに対応するエネルギー吸収の結果生ずるので、有機化合物の構造決定、分析などに広く利用される。利用される波長域は、観測すべき分子のエネルギー準位に応じて、紫外部から可視、赤外およびマイクロ波領域にまで及ぶ。マイクロ波を用いる星間物質の探索は電波天文学の重要なテーマである。

[中島篤之助]

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百科事典マイペディア 「吸収スペクトル」の意味・わかりやすい解説

吸収スペクトル【きゅうしゅうスペクトル】

連続スペクトルをもつ光や電磁波が物質を透過したとき,物質に特有な波長領域が吸収されて,一部が欠けたか弱められたスペクトル。普通気体の原子は線スペクトルを示し,簡単な分子の気体は帯スペクトルを示す。複雑な分子,液体,個体では普通幅広いぼやけた帯スペクトルになる。天体の物質構成の研究,有機化合物の構造決定,分析などに利用。
→関連項目赤外線分光分析

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化学辞典 第2版 「吸収スペクトル」の解説

吸収スペクトル
キュウシュウスペクトル
absorption spectrum

物質による光の吸収の振動数あるいは波長分布.通常,吸収はランベルトの法則に従うので,吸収係数または吸光係数の振動数分布で表すことが多い.気体では線スペクトルになるが,液体や固体ではある振動数領域に広がって構造をもった連続スペクトルを示すことが多く,低温では一般にスペクトル幅は狭くなる.吸収スペクトルが可視光域にかかるときは,物質は有色となる.可視光・紫外光域の吸収スペクトルは電子準位の研究に用いられ,蛍光・りん光の励起スペクトルや光電導の作用スペクトルとの関連が深い.赤外光域の吸収スペクトルは分子の振動準位の研究に用いられる.

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「吸収スペクトル」の意味・わかりやすい解説

吸収スペクトル
きゅうしゅうスペクトル
absorption spectrum

光やその他の放射線が物質中を通過するとき,その物質に特有な波長領域で吸収される。このため連続光を物質に当てて通過した光のスペクトルを調べてみると,連続スペクトルのなかで黒い帯状か線状に光が弱められているのがわかる。これを吸収スペクトルという。広い波長範囲に連続的に吸収されているものを連続吸収スペクトル,帯状に狭い波長範囲に現れるものを吸収帯,線状のものを線吸収スペクトルという。一般に固体,液体は連続吸収,気体分子は帯状吸収,原子は線状吸収を示す。

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改訂新版 世界大百科事典 「吸収スペクトル」の意味・わかりやすい解説

吸収スペクトル (きゅうしゅうスペクトル)

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栄養・生化学辞典 「吸収スペクトル」の解説

吸収スペクトル

 光が物質の層を通過する場合,波長によって吸収される程度が異なる.連続した波長についてこの量を記録すると,一つのスペクトルとなる.このスペクトル.

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世界大百科事典(旧版)内の吸収スペクトルの言及

【光スペクトル】より

… 光のスペクトルはその構造によって,ある範囲にわたって連続的に分布する連続スペクトル,特定の波長のところに線状に配列する線スペクトル,幅の狭い帯状に配列する帯スペクトルに分けられる。また連続スペクトルをもつ光が物質を通過したとき,その物質に特有な波長領域が吸収されて欠けるか弱められたものを吸収スペクトルといい,これに対して,物質から放出される光のスペクトルを発光スペクトルまたは放射スペクトルという。 原子が放出または吸収する光のスペクトルを原子スペクトルといい,一般には線スペクトルである。…

※「吸収スペクトル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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