日本大百科全書(ニッポニカ) 「問題解決学習」の意味・わかりやすい解説
問題解決学習
もんだいかいけつがくしゅう
問題解決の過程において、反省的思考reflective thinkingが働き、それによって新しい知識や能力、態度が習得されるとする学習の方式。課題解決型学習ともいう。1910年にアメリカのJ・デューイが『われわれはいかに考えるか』How We Thinkのなかで述べている。
知識を注入するだけの教授法、系統学習に対して、学習者の生活や要求に応じ、日常的な生活事態を足場にして、問題解決problem solvingを行わせ、学習者の諸能力を高めようとする方法で、人間が問題場面に遭遇したとき、問題解決のための思考に対応する学習指導の過程が重視される。すなわち(1)問題の明確化、(2)問題解決に必要な情報の収集、(3)解決可能な仮説をたてる、(4)多様な仮説のなかから適切な仮説を選び出す、(5)実際に仮説をテストして検証する、などである。しかしその過程は多様で、一定した様式はない。導かれた結論は、最終的な結論ではなく、その成立に対する鍵(かぎ)であるとデューイは考えた。そして新しい事態のなかで難点が解明され、混乱が整理され、障害が克服され、反省的思考によって提起された問題が解決される。したがって問題解決における反省的思考の機能は、あいまいと疑いと葛藤(かっとう)と不安とがある程度経験される事態を、脈絡のある安定した調和のある一つの事態へと転換することにある、といっている。
問題解決学習は、系統的に知識を注入伝達する授業過程に対立するもので、学習者の興味や要求を生かす、教師は教授者でなく助言者である、学習者の身体的・知的・道徳的・社会的発達に基づく、社会と学校と家庭の協力によって学習者の生活を満たす、などの、進歩主義教育思想によって支えられ発展した。初期には学習者の心理的興味に基づく問題が取り上げられたが、しだいに生産や創造の作業活動による実践的行動の伴う問題に移っていった。のちには、地域社会の問題、社会の矛盾の問題が中心に学習が展開された。しかし、教育課程が、教科の特性や内容の系統や構造を超越した、生活の現実の問題からなる経験カリキュラムであったため、学問の体系や学問の探究方法が組織的に、構造的に習得されるか、現代および未来の社会に必要な文化遺産が十分に継承されるのかという疑問が残された。
[武村重和]
『武村重和著『理科の授業原理』(1977・明治図書出版)』