善の研究(読み)ぜんのけんきゅう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「善の研究」の意味・わかりやすい解説

善の研究
ぜんのけんきゅう

近代日本の代表的哲学西田幾多郎(きたろう)最初の体系著述。1911年(明治44)刊。本書は、第1編「純粋経験」、第2編「実在」、第3編「善」、第4編「宗教」の4編よりなる。第2、第3の両編は金沢の第四高等学校での講義草案であるが、難解なため学生が請うて印刷したことがあり、著者によると第2、第3の2編がまずでき、第1、第4の順序でできあがったものだという。

 本書は第四高等学校教授であった無名の著者をして一躍学界に有名ならしめたもの。欧米哲学摂取後、ただこれを紹介するのとは違い、自家薬籠(やくろう)中のものとするのみならず、批判すべきものは批判し、摂取すべきは摂取し、しかもいわゆる哲学の領域より文芸家、美術家の作品、ことばの潜めた深い体験に及び、さらに「純粋経験」や「生の躍進」などは禅体験からいっそう深遠な意味を付加されるに至った。当時の哲学徒をして、明治以後の日本人の手になる最初の独創的な哲学の書と称賛せしめたのも、歴史的に顧みてむべなるかなと思われる。

高山岩男

『『善の研究』(岩波文庫)』

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百科事典マイペディア 「善の研究」の意味・わかりやすい解説

善の研究【ぜんのけんきゅう】

西田幾多郎処女作。1911年刊。金沢の四高で教鞭をとるかたわら,打坐参禅に努めつつ,学生に講義した草稿をまとめたもの。この書の根本的立場〈純粋経験〉はW.ジェームズ用語に由来するが,その内容は独自の東洋的精神体験を含んだもので,そこから実在・善・宗教の諸問題が論じられる。西田哲学の根本性格はすでにこの書の中に明らかである。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「善の研究」の意味・わかりやすい解説

善の研究
ぜんのけんきゅう

西田幾多郎著。 1911年刊。日本語で書かれた哲学書として最も広く読まれている。西欧哲学の単なる紹介の域をこえた,日本人独自の体系の樹立を試みた最初の哲学書として意義が大きい。全4編から成り,第1編は純粋経験,第2編は実在,第3編は善,第4編は宗教となっている。その基礎的な概念は「純粋経験」と呼ばれ,主客未分の,あるがままの事物の直接的な知覚をいい,思考も思想も意志も包含する性格のものである。西田はこうして「純粋概念」のみが唯一実在であると考え,それを自己の根本的立場とすることによって独我論をこえることができたとしている。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「善の研究」の解説

善の研究
ぜんのけんきゅう

西田幾多郎の哲学書。1911年(明治44)初版。四高における講義案を数編の雑誌論文として発表したものが中心。東洋的な「主客合一」を「純粋経験」としていっさいの基礎におき,独自の哲学体系を構築した。西洋哲学による東洋思想の解釈にいきづまっていた明治思想界に新鮮な地平を開拓し,同時に「人生の問題」を楽観性豊かに論じたことにより,教養主義の古典となった。

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世界大百科事典(旧版)内の善の研究の言及

【西田幾多郎】より

…そのころから,物心両面の苦悩のうちに参禅の経験を重ねたが,やがて当代の日本に広い影響を与えていたT.H.グリーンの理想主義的人格主義倫理学やW.ジェームズの純粋経験の哲学にも学びつつ,主客未分の〈純粋経験〉の世界を実在の根本実相と観ずる立場に到達した。それを論述したのが《善の研究》(1911)であり,この書は,近代合理主義,理想主義と,現実の日本の非合理的情念,実利主義との間で近代的自我の確立に苦しんでいた当代の青年に,衝撃的な影響を与えた。やがて学習院教授を経て,1910年京都大学哲学科倫理学講座の助教授に着任し,13年教授となって,前任の桑木厳翼の東大転出とともに哲学講座の中心となった。…

※「善の研究」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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