崇神天皇が支配圏を拡大するため四方に遣わしたとする皇族将軍の総称。《日本書紀》崇神10年9月条に大彦命を北陸(くぬがのみち)に,武渟川別(たけぬなかわわけ)を東海(うみつみち)に,吉備津彦(きびつひこ)を西道(にしのみち)(山陽)に,丹波道主(たにわのちぬし)命を丹波(山陰)に遣わし,服従しない者は武力をもって討伐することを命じたと見える。《古事記》には吉備津彦派遣のことが欠けているが,孝霊段に大吉備津日子命と若建吉備津日子命が吉備国を平定したことが見える。これらの将軍はその名からしても,また年代よりみてもいずれも実在の人物とは断定しがたい。しかし,崇神記に大毘古・建沼河別(たけぬなかわわけ)父子の出会った所を相津(あいづ)(会津)というとあるのは,東海・北陸方面の彼らを祖とする阿倍氏同族の分布と一致する事実と無関係でなく,何ほどか史実の背景があったとも考えられる。いずれにせよ,大和朝廷がその版図を拡大していく過程で皇族が将軍となって征戦に従事したことを伝えるもので,日本武(やまとたける)尊の物語の先駆をなすものであろう。
執筆者:黛 弘道
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崇神(すじん)天皇の代に北陸、東海、西道、丹波(たんば)に派遣されたと伝える将軍。ただし『古事記』では、孝霊(こうれい)天皇の代に、まず大吉備津日子命(おおきびつひこのみこと)と若建(わかたけ)吉備津日子命を吉備へ派遣し、ついで崇神天皇の代に大毘古命(おおひこのみこと)を高志(こし)道へ、建沼河別命(たけぬなかわわけのみこと)を東方十二道へ、日子坐王(ひこいますのみこ)を丹波へ遣わしたとしており、崇神朝では三道派遣の説話になっている。また『日本書紀』が吉備津彦を西道に、丹波道主命(みちぬしのみこと)を丹波に遣わしたとするのとも、将軍名が異なっている。倭(やまと)王権の勢威拡張を物語る将軍派遣説話の一種。
[上田正昭]
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崇神(すじん)朝に四道に派遣された伝説上の将軍。「日本書紀」によると崇神10年,大彦(おおひこ)命を北陸,武渟川別(たけぬなかわわけ)命を東海,吉備津彦命を西道,丹波道主(たにわのみちぬし)命を丹波に,それぞれ遣わしたという。「古事記」では,大毗古(おおひこ)命を高志(こし)(越)道,建沼河別命を東方十二道,日子坐(ひこいます)王を旦波(たにわ)に派遣したという三道将軍となっている。なお稲荷山古墳出土鉄剣銘の「意冨比垝(おおひこ)」を大彦命と関連づける説がある。
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