エチレンの塩素二置換体の一つ。正しくは1,1-ジクロロエテンという。クロロホルムに似たにおいのする揮発性無色液体。
工業的には、クロロエテン(クロロエチレン、塩化ビニル)への塩素付加または1,2-ジクロロエタンの塩素置換により得られる1,1,2-トリクロロエタンを、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムにより脱塩化水素することにより製造する。きわめて不安定な化合物で、酸素に触れ過酸化物をつくり爆発することがあるので水中や暗所で貯蔵する。光、熱、触媒により重合しやすい。塩化ビニル、酢酸ビニル、アクリロニトリルなどとの共重合体がよく用いられ、合成繊維、商標名サランで知られる、耐薬品性が大きく吸湿性の小さいラップ用食品保存フィルムなどの原料となる。自動車の内装、漁網などにも使われる。蒸気は麻酔作用があり有害である。
[谷利陸平]
エチレンの二塩素化物で,同一炭素に2個の塩素原子が結合している。1,1-ジクロロエチレンともいう。化学式CH2=CCl2。融点-122.1℃,沸点31.7℃。塩化ビニルCH2=CHClの塩素化または1,2-ジクロロエタンの塩素化で得られる1,1,2-トリクロロエタンCH2Cl・CHCl2をアルカリで脱塩酸することによって製造される。蒸気は麻酔性をもち,有毒。きわめて不安定で,酸素により爆発性の過酸化物を生じ,熱,光,ラジカル重合触媒によって容易に重合するので取扱いには注意を要する。重合防止剤としてフェノール類,アミン類を用いる。おもに塩化ビニルあるいはアクリロニトリルCH2=CHCNとの共重合体が食品包装材料用フィルムや家庭用ラップフィルムなどとしても市販されている。
→ポリ塩化ビニリデン
執筆者:中井 武
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
1,1-dichloroethene,C2H2Cl2(96.94).CH2=CCl2.塩化ビニルを塩素化した1,1,2-トリクロロエタンの水酸化カルシウムによる脱塩化水素によってつくられる.融点-122.1 ℃,沸点31.7 ℃.1.2129.引火点-10 ℃.きわめて不安定で,酸素と接触すると過酸化物をつくり,光や熱で容易に重合する.塩化ビニリデン-塩化ビニル共重合体の合成に用いられる.加熱や衝撃によって爆発することがあるので水中に保存する.有毒.[CAS 75-35-4]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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