鉱山保安(読み)こうざんほあん(その他表記)mine safety

日本大百科全書(ニッポニカ) 「鉱山保安」の意味・わかりやすい解説

鉱山保安
こうざんほあん
mine safety

鉱山労働者鉱山作業によって死傷したり職業病にかかったりしないこと。鉱山における災害率が低いとき、その鉱山の保安が確保されているという。鉱山保安法(昭和24年法律70号)によれば、「保安」とは鉱業に関する次の事項をいうとされている。(1)鉱山における人に対する危害防止、(2)鉱物資源の保護、(3)鉱山の施設の保全、(4)鉱害の防止。なお、鉱山における人に対する危害の防止には、衛生に関する通気および災害時における救護を含むものとされている。

 鉱山保安の維持・向上には、鉱山の実態に即した保安技術の研究開発と実務への適切な応用、ならびに国および鉱山における機能的な保安管理機構の確立と運営が必要である。

 鉱業権者(登録を受けた一定の鉱区内で鉱物を掘採し取得する権利を有する法人または個人=鉱山経営者)が鉱山保安確保のために講じなければならない問題には次のようなものがある。(1)落盤、崩壊、出水、ガスの突出、ガスまたは炭塵(たんじん)の爆発、自然発火および坑内火災の防止、(2)ガス、粉塵捨石鉱滓(こうさい)、坑水、廃水および鉱煙の処理に伴う危害または鉱害の防止、(3)機械、器具または火薬類その他の材料、動力および火気の取扱いに伴う危害の防止、(4)通気の確保および救護組織の設置、(5)鉱物資源の保護、(6)機械、器具、建設物および工作物の保全、(7)土地の掘削による鉱害の防止その他の保安。鉱山の従業員は鉱山において保安のため必要事項を正しく守らなければならない。

[房村信雄]

鉱山保安管理機構

鉱業権者は鉱山における保安を確保するため、鉱山保安法規の規定により、適切な人員を選任して鉱山保安管理機構を確立しなければならない。この機構は、当該鉱山において鉱業の実施を統括管理する保安統括者、これを補佐して鉱山保安に関する技術的事項を管理する保安技術管理者および副保安管理者、これら上級職員の指揮を受けて専門分野の保安に関する事項を分掌する保安係員、保安確保のため必要があるときは管理者または係員に対しその施設の使用の停止・修理・改造もしくは移転または鉱業の実施の方法の改善その他保安のため必要事項を勧告する権限を有する保安監督員、およびこれを補佐するためその鉱山の鉱山労働者のうちから推薦された保安監督員補佐員からなる。なお、保安係員には分掌事項によって、坑外保安、坑内保安、機械保安、電気保安、汽かん、火薬、発破、溶接、鉱害防止、鉱場保安(石油鉱山)などの別がある。

[房村信雄]

鉱山保安技術職員

鉱山保安は鉱山における人命保護に関する技術であるから、その実務にあたる技術職員は鉱山保安に関して十分な知識と技術をもち、一定の資格条件を満たす者でなければならない。そこで鉱業権者は、国の行う保安技術職員国家試験に合格した者のうちから必要な保安技術職員を選任するように定められている。国家試験は保安技術管理者、保安監督員等に対する上級試験と、各分掌事項に応じた保安係員に対する普通試験の別があり、経済産業省に設置された中央鉱山保安協議会(旧鉱山保安試験審査会)が行う。なお、保安技術職員には甲種炭坑に対する甲種、乙種炭坑その他の一般鉱山に対する乙種、石油・天然ガス鉱山に対する丙種、核原料物質鉱山に対する丁種の別がある。

[房村信雄]

鉱山保安センター

鉱山保安技術職員および鉱山労働者の鉱山保安に関する知識と技術の普及・向上を図るため、国は1968年(昭和43)に北海道岩見沢市と福岡県粕屋(かすや)町に鉱山保安センターを建設し、鉱業労働災害防止協会が管理にあたっている。ここでは、訓練坑道その他の教育訓練設備を有し、国の資金援助のもとに鉱山救護隊員の養成、保安技術職員の教育、発破技術その他の専門技術の教育訓練、保安管理技術の研究集会などが定期的に行われている。ここではまた、都市消防署員の救護訓練も行われている。

[房村信雄]

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改訂新版 世界大百科事典 「鉱山保安」の意味・わかりやすい解説

鉱山保安 (こうざんほあん)
mine safety

鉱山作業の安全水準の高揚を目的とし,鉱山災害を引き起こす可能性およびその原因と対策に対する科学的,工学的な考察・処置をいう。鉱山作業の中でも最も主要なものは坑内作業であり,したがって実質的に坑内保安が主体となる。また換言すれば,鉱山保安とは災害の原因となる可能性のある諸要因を排除して生産を実施することであり,このような生産をこそ最も正常な生産状態というべきであり,保安と生産とは不可分である。日本では鉱山保安を確保するための法律として鉱山保安法が制定されているが,その中で保安とは,(1)鉱山における人に対する危害の防止,(2)鉱物資源の保護,(3)鉱山の施設の保全,(4)鉱害の防止,と規定されている。鉱山保安は,原則的には,どのような種類の鉱物の採掘についても同様の考えで実施できることになるが,実際には,採掘する鉱物が多種多様にわたり,それに伴って採掘方法などにも差異があり,同一に処置できない保安技術上の問題が多い。したがって,上記の鉱山保安法では鉱山保安に関する基本的事項を定め,その具体的内容については金属鉱山等保安規則,石炭鉱山保安規則,石油鉱山保安規則で規定している。
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百科事典マイペディア 「鉱山保安」の意味・わかりやすい解説

鉱山保安【こうざんほあん】

鉱山作業,特に坑内作業の安全と鉱害防止による正常な操業維持を目的に,災害・事故の原因究明と発生の事前検知を工学的に追求,処置すること。内容は支保の充実,珪肺(けいはい)(塵肺)防止,坑内ガス測定と通気の改善,炭塵(たんじん)発生防止,作業環境改善,火薬取扱注意,作業員の教育,堆積物崩壊防止など。保安の基準などを定めた鉱山保安法(1949年)がある。
→関連項目鉱山鉱山災害採炭炭鉱労働災害

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鉱山保安」の意味・わかりやすい解説

鉱山保安
こうざんほあん
mine safety

鉱山における,(1) 人に対する危害の防止,(2) 鉱物資源の保護,(3) 鉱山の施設の保全,(4) 鉱害の防止,をいう。 (1) は鉱山作業に伴う鉱山労働者の安全と衛生を確保すること,(2) は鉱物資源の合理的開発により実収率を高めること,(3) は機械・設備などを故障させることなく効率よく使用すること,(4) は鉱山作業により鉱山自体または鉱山以外の第三者に有害な影響を及ぼさないようにすること,である。これらの諸点について問題がないとき,鉱山保安が確保されているという。一般には鉱山災害の発生率の多少をもって鉱山保安水準が評価されるが,災害の発生が少くても潜在的不安全状態がある場合は,真に鉱山保安が確保されているとはいえない。鉱山では,保安状態に見合った生産規模とすべきであるとされている。

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